農地所有適格法人と農業への参入

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農作業

農業に新規参入しようとする場合、農地の取得が欠かせません。農地取得の方法としては、農地の購入や賃借する方法があります。

しかし、農地については農地法などの法律によって、自由に売買や賃借ができないようになっています。(詳しくは、“農地の利用と農地法”をご覧ください。)

そして、個人や法人が農地を取得する場合には、以下のような条件を満たすことが必要です。

個人の場合

個人が農地を取得する場合の条件は、次のとおりです。

①農地のすべてを効率的に利用すること

機械や労働力等を適切に利用するための営農計画を持っていること

②必要な農作業に常時従事すること

農地の取得者が、必要な農作業に常時従事(原則、年間150日以上)すること

③一定の面積を経営すること

農地取得後の農地面積の合計が、原則50アール(北海道は2ヘクタール)以上であること

④周辺の農地利用に支障がないこと

水利調整に参加しない、無農薬栽培の取組が行われている地域で農薬を使用するなどの行為を行わないこと

法人の場合

法人(企業等)が農地を所有したり賃借したりしようとする場合、所有であっても賃借であっても、個人の場合と同じく(個人の場合の②は除きます。)、以下の3つの条件が必要です。

①農地のすべてを効率的に利用すること

③一定の面積を経営すること

④周辺の農地利用に支障がないこと

これらに加えて、法人については農地取得の方法が所有か賃借かで、それぞれ以下の条件が必要となっています。

農地を所有する場合

農地を所有する法人は“農地所有適格法人”でなければならず、他の事業を行っている通常の株式会社などのままでは農地を所有することはできません。

法人が農地所有適格法人となるためには、以下の4つの条件が必要です。

I.  法人形態要件

農地所有適格法人は、(a) 株式会社(公開会社でないもの)、(b) 農事組合法人、(c) 持分会社(合名会社、合資会社、合同会社のこと)のいずれかでなければなりません。

II. 事業内容要件

主たる事業が農業(自ら生産した農産物の加工・販売等の関連事業を含みます。)でなければなりません。売上高の過半が農業によるものであれば、主たる事業が農業だと判断されます。

III. 議決権要件

株式会社の場合、農業関係者が総議決権の過半を占めることが必要です。ここでいう農業関係者とは、次の5つの類型に当てはまる個人や団体を指します。

・ 法人の行う農業に常時従事する個人(原則として年間150日以上従事)

・ 農地の権利を提供した個人

・ 農地中間管理機構または農地利用集積円滑化団体を通じて法人に農地を貸し付けている個人

・ 法人に基幹的な農作業を委託している個人(作業委託農家)

・ 地方公共団体、農地中間管理機構、農業協同組合、農業協同組合連合会

VI. 役員要件

農地所有適格法人の役員等は以下の2つの要件を満たす必要があります。

・役員の過半が、法人の行う農業に常時従事する株主等(原則年間150日以上)であること

・役員又は重要な使用人の1人以上が、法人の行う農業に必要な農作業に従事(原則年間60日以上)すること

農地を賃借する場合

法人が農地を所有するのではなく、賃借することで農業を行う場合には、農地所有適格法人の条件を満たす必要はなく、一般の法人が農地を賃借することも可能です。ただし、以下の条件を満たす必要があります。

I. 貸借契約に解除条件が付されていること

解除条件の内容:農地を適切に利用しない場合に契約を解除すること

II. 地域における適切な役割分担のもとに農業を行うこと

役割分担の内容: 集落での話し合いへの参加、農道や水路の維持活動への参画など

III. 業務執行役員または重要な使用人が1人以上農業に常時従事すること

農業の内容:農作業に限られず、マーケティング等経営や企画に関するものであっても可

なお、個人・法人による農地の賃貸借については、農地の安定的確保のため、一般的な民法の規定が農地法の規定によって修正されています。

例えば、農地の賃貸借契約を解約、解除したり、契約更新しないとの通知をしようとするときには、都道府県知事等の許可が必要とされています。この許可が認められるのは、農地を転用することが相当な場合や賃貸人の自作を相当とする場合などに限定されていますので、一方的に賃貸借契約を解除することは難しくなっています。

その他にも、農地の賃貸借の期間については、50年まで(一般的な民法の規定では20年まで)とされており、農地については長期間の賃貸借が可能となっています。

このように、農地法は、賃貸借の場合でも契約解除を制限したり、長期間の賃貸借を可能にするなどの修正をすることで、農地の安定を確保しています。

農地法改正で農業ビジネスはどう変わった

このように、農地法によって、農地を所有したり賃借したりする場合には、その主体が農業・農作業に直接関わる者でなければならないこととなっています。農地法は、このような規制をすることで、農地が放棄されることがないようにし、農地が適切に利用されるようにしているのです。

平成28年の農地法改正によって農地所有適格法人(それまでは、農業生産法人と呼ばれていました。)の要件が一部緩和され、企業が参入しやすくなったと言われています。しかし、要件は緩和されたものの、議決権要件や役員要件が撤廃されたわけではありませんので、実質的には、法改正後も農業・農作業に直接かかわる個人・団体に農地を所有させることで農地の安定的確保を図るという考え方に変化はありません。

平成28年の法改正は農業者以外が農業をビジネスとして営むことを容易にしたものとは言えません。しかし、農業者の立場からは、農業法人が6次化事業を推し進めやすくなったと言えます。例えば、投資ファンドなどから投資を呼び込みやすくなったり、他業種との共同開発や提携がしやすくなったりしました。

反対に、農業ビジネスに参入したい企業は、農業法人に出資しやすくなり、農業者と協働しやすくなったと言えます。

このように、農地法の改正によって、農業をビジネスとするための環境が徐々に整いつつあるのです。

なお、この記事の内容の一部については、以下の農水省HPを引用・参照しています。

http://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/wakariyasu.html

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