農業法人のM&Aのプロセス

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

これから、農業の生産性向上の一つの方策として、農業経営体、なかでも農業法人の大規模化がますます進んでいくことが予想されます。そして、その大規模化の方法として、農業法人のM&Aが増加していくでしょう。

一般企業に比べると農業法人のM&Aの実例は多くありませんが、基本的なM&Aのプロセスや当事者は一般的なM&Aと同様です。ここでは、M&Aの当事者とプロセスについて解説します。

M&Aの当事者

 

株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割といったM&Aには、主に以下の当事者が関わっています。

①買主

株式譲渡や事業譲渡では譲受人に当たります。合併や会社分割では、その方式(吸収合併・新設合併、吸収分割・新設分割)によって実質的な買主の呼び名が変わります。

②売主

株式譲渡や事業譲渡では譲渡人となり、合併や会社分割では買主の場合と同様に方式によって呼び名が変わります。

③仲介業者・FA

買主と売主がもともと取引先であった場合や経営者同士が知り合いだったこと等をきっかけとしてM&Aに至る場合もありますが、そうでなければM&A仲介業者によって買主と売主がマッチングされることがほとんどです。

仲介業者はその名のとおり、M&Aの仲介を行い、買主と売主をマッチングさせます。さらに、M&Aが完了するまでの手続きも手伝います。仲介業者の特徴は、買主と売主の間に立つ仲介業務を行っており、買主や売主の代理人ではないということです。そのため、売主や買主の一方の利益を最大化するための交渉や助言はしません(一方にのみ加担するとそれは他方への義務違反となる可能性もあります。)。仲介業者は、売主と買主の両方から手数料を受け取ることも多くなっています。

FAとは、Financial Advisor(フィナンシャル・アドバイザー)の略です。そのまま翻訳すれば財務アドバイザーとなりますが、財務に限らずより広くM&Aの助言業務を行っている例も多くみられれます。FAは仲介業者とは異なり、売主か買主の一方につくことになりますので、売主または買主の利益を最大化するよう業務を行います。そして、FAは売主か買主の一方からのみ報酬を受け取ります。

仲介業者にはM&Aの仲介業務を専門に行っているM&A仲介会社も数多くありますが、そのほかにも地域の金融機関なども仲介業務を行っています。FAは比較的大規模なM&A案件の場合に選任されることが多く、FA専門会社もあれば金融機関や大規模会計事務所の関連会社などがFA業務を行うこともあります。

そのほか、最近はこれまでの仲介業者と異なり、マッチングのみを行う業者やサイトも登場しています。特に規模の小さな会社のM&Aの場合にはこのような業者やサイトが利用されることも多くなっています。

④専門家

M&Aを行う際には、多くの場合に弁護士や公認会計士・税理士といった専門家がかかわります。M&Aは契約行為であるため弁護士が契約書を作成・チェックしますし、法務面のデューディリジェンスを行うためにも弁護士が必要です。また、財務や税務については公認会計士・税理士がその専門知識を活かしてチェック・検討することになります。

そのほかにも、必要に応じて司法書士や弁理士、社会保険労務士などが関与することもあります。

M&Aのプロセス

M&Aの一般的なプロセスは以下の通りです。なお、ここでは仲介業者を通じてM&Aを行う例を挙げています。また、このプロセスは一般的な流れであり、一部が省略されたり、順序が入れ替わったりすることがあります。

売 主

買 主

仲介業者に売却相談 仲介業者に買収相談

仲介・アドバイザリー契約締結

秘密保持契約締結

財務資料等提出

ノンネームシート作成・提出

ノンネームシート受領・検討

仲介・アドバイザリー契約締結

秘密保持契約締結

企業概要書等受領・検討
基本合意書締結 基本合意書締結
デューディリジェンス デューディリジェンス
条件交渉・面談 条件交渉・面談
最終契約締結 最終契約締結
M&A実行(クロージング) M&A実行(クロージング)

①仲介業者に売却相談・仲介業者に買収相談

仲介業者に相談することにより、売主としては売却の可能性と価値を把握することができますし、買主としてもニーズを伝えておくことで候補企業が現れた時に連絡をもらうことができるようになります。

②仲介・アドバイザリー契約締結・秘密保持契約締結

売主がM&Aによって会社を売却することを決めた場合には、仲介業者との間で仲介・アドバイザリー契約(名称は様々です。)を締結します。同時に、秘密保持契約(仲介・アドバイザリー契約と一体となっている場合もあります。)を締結します。

仲介・アドバイザリー契約の内容として、仲介業者の業務の対象と報酬の決定方法については、のちにトラブルになりやすい点ですので特に確認が必要です。また、会社の重要な情報を提供することになりますので、秘密保持義務を課すために秘密保持契約も締結すべきでしょう。

③財務資料等提出

売主は財務に関する資料等を仲介業者に提出し、買主候補に検討してもらうための資料を作成します。重要な情報を提出することになりますので、上記②の秘密保持契約が重要性を持ちます。

④ノンネームシート作成・提出

⑤ノンネームシート受領・検討

ノンネームシートとは売主名を出さず匿名で会社の基本的な情報をまとめた資料です。売主が会社の売却を検討していることが広まると様々な影響が出る可能性がありますので、まずは匿名で基本的な情報のみ記載されたノンネームシートを買主候補に渡して検討してもらいます。

⑥仲介・アドバイザリー契約締結・秘密保持契約締結

ノンネームシートによる検討の結果、買主が具体的にM&Aを検討することとなった場合は、仲介業者との仲介・アドバイザリー契約を締結します。業務内容と報酬額について注意が必要なことは売主の場合と同様です。

また、売主の具体的な情報を受領するために秘密保持契約を締結します。

⑦企業概要書等受領・検討

企業概要書とは、売主の名称や財務情報等の詳細がまとめられた資料です。買主は企業概要書や付属する資料を元にさらに買収の可能性を検討します。

⑧基本合意書締結

売主と買主が互いを相手方としてM&Aを希望する場合には、まず基本合意書を締結します。基本合意書は最終的な契約に至る前の段階で、独占的に交渉を行うことや基本的な条件、スケジュール、デューディリジェンスを行うことなどが盛り込まれます。

なお、基本合意書は最終的な契約ではないことから、多くの場合には法的拘束力がないこと(売却や買収する法的義務を負わないこと)が明記されます。

⑨デューディリジェンス

デューディリジェンスは買収監査ともいわれ、事業、財務、税務、法務などについて実態を把握するための調査のことです。デューディリジェンスの対象をどうするか、どの範囲まで行うかは、企業の規模や買主が重視しているポイント、かけられる費用と時間との兼ね合いで決まります。

常に広範囲のデューディリジェンスを行うことは現実的ではありませんが、のちのトラブル防止と買収後のスムーズな移行のために、重要な点についてはデューディリジェンスを行うべきでしょう。

⑩条件交渉・面談

ディーディリジェンスの結果も踏まえて、具体的な譲渡等の価格を交渉します。経営者・株主間の面談により直接交渉することも少なくありません。

⑪最終契約締結

M&Aの条件が合意された場合には、法的拘束力のある最終契約書を締結します。譲渡等の価格はもちろん、実行日(クロージング日)や実行日までの義務、実行日後の義務などが盛り込まれます。そのほかに、表明保証条項(売主が財務・法務などの事項について、真実かつ正確であることを保証するもの)を設けることが一般的です。

⑫M&A実行(クロージング)

M&Aの実行(クロージングともいいます。)により、実際に会社が売主から買主の手に渡ります。登記などの手続きが必要な場合には、これらの手続きも行われます。

このほか、M&Aの形式によって必要な手続き(債権者保護手続など)もありますが、上記のプロセスは多くのM&Aで共通しています。

M&Aの検討から実行までの期間は案件により様々ですが、早くても数ヶ月、長い場合には1年以上要することもあります。

まとめ

M&Aにかかわる当事者やそのプロセスを見るとM&Aはとても時間と費用がかかる大変なことだと思われるかもしれません。確かにM&Aは一つの会社の売買ですので簡単なことではありませんが、実際にかけられる時間と費用を考えながら、効率的に進めることも可能です。

M&Aを成功させるためには、まずは仲介業者・FAや専門家に相談し、効率よくM&Aを進めるとよいでしょう。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す

*