
従業員を雇用した場合、事業形態や従業員数に応じて、社会保険(健康保険・厚生年金保険)や労働保険(労災保険・雇用保険)に加入しなければなりません。
しかし、農業については、一般的な事業の場合と異なる取扱いがされているため、加入義務の有無について、農業ビジネス特有の観点からチェックする必要があります。
社会保険の加入義務
通常、以下のいずれかに当てはまる事業所は、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する義務があります。
- 法人事業所
- 個人事業のうち、常時5人以上の従業員を使用している事業所
しかし、農業については、二つ目の“個人事業のうち、常時5人以上の従業員を使用している事業所”であっても、強制加入義務がないこととされています。
したがって、農業ビジネスについては、株式会社や合同会社、農事組合法人といった法人によって農業ビジネスを経営している場合にのみ、社会保険の加入義務があります。
なお、社会保険への加入義務がない場合、従業員は国民健康保険や国民年金に加入することになります。また、農業者の年金については、農業者年金(http://www.nounen.go.jp)もあります。
労働保険の加入義務
労働保険(労災保険・雇用保険)については、社会保険と異なり、農業であっても他の事業と同様に労働保険の加入義務の有無が判断されます。具体的には、以下のいずれかに当てはまる事業所は、労働保険に加入しなければなりません。
- 法人事業所
- 個人事業であり、常時5人以上の従業員を使用している事業所
このように、農業ビジネスを法人によって経営している場合はもちろん、個人事業として経営している場合でも従業員が5人以上いる場合には、労働保険には加入しなければならないこととなっています。この点は、社会保険と異なっていますので、注意が必要です。
パートタイマー・アルバイトの場合
フルタイムで働く正社員についての社会保険、労働保険の加入義務の有無は上記のとおりですが、社会保険・労働保険の適用事業所である場合でも、短時間勤務をしているパートタイマー・アルバイトについての社会保険、労働保険への加入義務の有無は、労働時間などによって変わってきます。
具体的には、以下に当てはまるパートタイマー・アルバイトの従業員については、各保険について加入義務があります。
健康保険・厚生年金保険
正社員の4分の3以上の労働時間と労働日数がある場合には健康保険・厚生年金保険に加入する義務があります。
なお、4分の3基準とは別に、従業員が501人を超える大きな会社については、1週間の労働時間が20時間以上あるなどの条件を満たせば加入義務があります。
労災保険
すべての従業員について加入義務があります。
労災保険は労働時間や労働日数に関係なく、すべての従業員が加入しなければならないことに注意が必要です。
雇用保険
①1週間の労働時間が20時間以上であり、②31日以上雇用する見込みがある場合には、加入義務があります。
このように、パートタイマーやアルバイトのような短時間勤務の従業員については、労働時間や労働日数などによって、それぞれの保険の加入義務の有無が変わってきますので、従業員ごとに確認が必要です。
まとめ
農業ビジネスのフルタイム従業員(正社員)の社会保険・労働保険の加入義務を経営形態の観点からまとめると、次のようになります。
法人 | 個人事業 | |
健康保険 | 〇 | × |
厚生年金保険 | 〇 | × |
労災保険 | 〇 | 従業員5人以上:〇
従業員5人未満:× |
雇用保険 | 〇 | 従業員5人以上:〇
従業員5人未満:× |
事業所として加入義務がある場合の短時間勤務従業員(パートタイマー・アルバイト)の社会保険・労働保険の加入義務は次のとおりです。
健康保険 | 労働時間と労働日数が正社員の4分の3以上:〇
労働時間と労働日数が正社員の4分の3未満:× |
厚生年金保険 | 労働時間と労働日数が正社員の4分の3以上:〇
労働時間と労働日数が正社員の4分の3未満:× |
労災保険 | 〇 |
雇用保険 | 労働時間が週20時間以上で雇用期間が31日以上:〇
労働時間が週20時間未満か雇用期間が31日未満:× |
社会保険・労働保険への加入は法律上の義務であるだけでなく、従業員が働きやすい職場を作るためにも重要です。
これから従業員を雇う場合はもちろん、すでに従業員を雇っている場合でも、改めてチェックするとよいでしょう。