農業従業員の労働条件通知書・労働契約書・就業規則

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労働契約書

従業員を雇用するということは、雇用主(会社)と従業員との間で労働契約(雇用契約)を結ぶということです。一般的には、契約を締結する際に、必ずしも“契約書”を作らなければならないわけではありません。

しかし、労働契約(雇用契約)については、“契約書”のような書面によって賃金などの労働条件を明確にしなければならないこととなっています。

労働条件の明示義務

従業員を雇用する場合には、労働契約(雇用契約)を締結します。労働基準法は、雇用主が従業員に対して、賃金や労働時間などの労働条件を明示するように求めています。具体的には、以下の労働条件について明示しなければなりません。

  1. 労働契約の期間
  2. (有期雇用の場合)契約更新の基準
  3. 就業場所・従事する業務
  4. 始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は交替期日や交替順序
  5. 賃金の決定・計算・支払方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給に関する事項
  6. 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
  7. 退職金の定めが適用される労働者の範囲、退職金の決定、計算・支払の方法、支払時期に関する事項
  8. 臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
  9. 従業員に負担させる食費、作業用品などに関する事項
  10. 安全・衛生に関する事項
  11. 職業訓練に関する事項
  12. 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
  13. 表彰・制裁に関する事項
  14. 休職に関する事項

上記のうち、1~6(5のうち、昇給に関する事項を除きます。)については、書面によって明示しなければなりません。7~14については、該当するものがある場合に明示する必要がありますが、これらについては書面による明示は求められていません(口頭のみでも可)。

もっとも、後のトラブル防止のためには、7~14についても、就業規則に明記するなど書面によって明示することが望ましいでしょう。

労働条件通知書・労働契約書・就業規則

労働条件通知書

労働条件のうち、特に重要な契約期間や労働時間、賃金など(上記1~6)については、書面によって明示することが義務付けられていますが、その方法の一つは、“労働条件通知書”に労働条件を記載し、その“労働条件通知書”を従業員に渡すというものです。

労働条件通知書のひな型は、厚生労働省ホームページに掲載されています(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/)。

労働契約書

労働条件の書面による明示のもう一つの方法は、従業員と労働契約書(雇用契約書)を締結し、その労働契約書の中に明示が必要な労働条件を記載するというものです。

厚生労働省は労働条件通知書のひな型を提供していますが、労働基準法は労働条件の書面による明示を求めているものの、その明示の方法は“労働条件通知書”によらなければならないと規定しているものではありません。そのため、労働契約書の中に必要な労働条件を明示する方法でも、明示義務を果たすことができます。この場合は、労働契約書と別に労働条件通知書を作成して渡す必要はありません。

重要なことは従業員に対して、上記の①~⑥の労働条件を書面によって明示することです。もっとも、厚生労働省が提供している労働条件通知書のひな型は、雇用主が作成して従業員に渡す形式になっており、従業員の署名押印がないために従業員が合意したということが書面からはわかりません。

そこで、従業員が合意していることを明らかにするために、労働条件通知書のみを作成して渡すよりも、必要な労働条件を記載し、雇い主と従業員双方が署名押印した労働契約書を締結する方法がより望ましいでしょう。そうすることで、後に「(労働条件通知書には書いてあるものの)内容に合意していないので無効だ」という従業員とのトラブルを避けやすくなります。

労働契約書を作成する際には、上記1~6の事項だけではなく、合意内容を明らかにするために⑦~⑭についても該当する事項を労働契約書か就業規則に記載すべきです。トラブル防止のためには、合意した内容が書面に残されていないという事態は避けるようにしなければなりません。

さらに、上記1~14に該当しないような事項(例:会社の秘密を保持する義務や競業禁止義務、退職時の義務など)についても、必要に応じて労働契約書や就業規則に記載します。

就業規則

就業規則とは、労働条件や従業員が守らなければならない職場規律について定めた規則類のことです。“就業規則”という名称に限らず、“従業員規程”、“社員規則”といった名称の場合もありますし、就業規則に付随するものとして“賃金規程”などがあれば、この“賃金規程”も就業規則に当たります。

労働契約には合意された労働条件を記載しますが、従業員全員に適用される労働条件や職場規律などは多岐にわたるため、労働契約にすべてを記載せず、就業規則に定めることが一般的です。そのため、労働契約書には必要最小限の規定しかなく、就業規則に実際の労働条件の大部分が記載されているという方法を取っている会社がほとんどです。

一つの事業場(会社ではなく個別の事業場が単位となっています。)で常時10人以上の従業員を雇っている場合には、就業規則を作成する義務があります。“常時”10人以上ですので、一時的に10人を超えるような場合には、就業規則の作成義務はありません。

もっとも、詳細な労働条件と職場規律を労働契約書にすべて記載することは現実的ではありませんし、労働契約書の内容を変更しようとする場合には、個別に従業員と合意しなければなりません。

そのため、従業員を雇用する場合には、従業員数が10人に満たない場合でも就業規則を作成することが望ましいでしょう。そうすることで、労働条件・職場規律の詳細が明らかになりますので従業員とトラブルとなることを避けることができ、雇用主だけでなく従業員にとってもメリットがあります。

就業規則作成の際には、従業員の過半数を代表する者(過半数代表者)などの意見を聞かなければならないことになっています。なお、ここで必要なことはあくまで意見を聞くことであり、過半数代表者と就業規則の内容について合意することや協議することまでは求められていません。意見聴取後には、労働基準監督署に就業規則を届け出る必要があります。

さらに、作成した就業規則は従業員に周知しなければならないこととなっていますので、職場に掲示したり、備え付けたりするなどの方法で、従業員がいつでも就業規則を確認することができるようにする必要があります。これは、就業規則の内容が労働条件として従業員に適用されるために必要な手続きですので、忘れないように注意が必要です。

就業規則のひな型は、厚生労働省のホームページに掲載されています(http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html)。

まとめ

従業員を雇用する際には労働条件を定める必要がありますが、労働条件を労働契約書と就業規則に記載することにより労働条件を明示する方法がベストと言えるでしょう。

労働条件通知書に明示が必要な労働条件を記載して交付する方法もありますが、従業員が労働条件を理解して合意していることを明らかにするために、明示が必要とされている労働条件を労働契約書に記載したり、労働条件通知書と同様の書面を労働契約書の別紙として添付したりすることが望ましいでしょう。

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