農業への新規参入の検討ポイント-農地の所有とリース

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

すでに事業を行っている企業が新たな事業として農業に参入することを検討することがあります。その理由としては、外食や小売りといった既存事業とのシナジーを期待する場合もあれば、既存事業の成長に限界があるため、全く異なる分野である農業に参入しようとすることもあるでしょう。また、既存事業は順調であっても、今後の環境の変化などに対応するために、事業分野を増やすために農業に参入しようとすることもあると思います。そのほかにも、SDGsへの注目の高まりから、人々の食を確保するために農業に参入することを考えている企業もあるかもしれません。

このように、企業が農業に新規参入をする目的はさまざまであるものの、実際に農業に参入するためには検討すべきポイントが数多くあります。そこで、ここでは最初の関門ともいえる「農地を所有するか、リースするか」について考えていきたいと思います。

農地を所有するか・リースするか

農業へ参入するためには農地が必要となることから、農地法の規制をクリアする必要があります。その際に最初のポイントとなるのは、農地を所有するのか、または農地をリース(賃借)するのか、という点です。

農産物を生産するためには必ず農地が必要です(ただし、植物工場や採草放牧地を必要としない畜産などは、「農地」がなくとも農業を行うことができます。)。農地がなければ米や野菜、果物といった商品を生産することができませんので、農業のためには農地があることが大前提となります。

この農地の利用について規制をしているのが農地法です。農地の所有や賃借のためには農地法の要件を満たす必要がありますが、その詳細については「農地所有適格法人と農業への参入」をご覧ください。

企業による農業への参入の第一関門は、農地を所有するために農地所有適格法人の要件を満たす必要があるのか、ということです。

農業を始めるにあたって、農地を所有することを希望する(あるいは、様々な理由から所有しなければならない)のであれば、農地所有適格法人の要件を満たすことが必要です。

一方、新規参入時に農地をリースして利用するのであれば、必ずしも農地所有適格法人の要件を満たす必要はありません。

農業法人のコントロール

すでに他の事業を行っている企業が農地を所有して農業に新規参入するためには、新たに会社を設立することが必須です。というのも、農地所有適格法人の要件の一つに、「事業内容要件」(主たる事業が農業であること)がありますので、他の事業をすでに行っている企業の一部門として農業部門を立ち上げ、農業に参入することは事実上困難であるためです。

このように、企業による農業への新規参入の際には新たに農業のための会社を設立することになりますが、この時に大きな問題となるのは、農業を行う会社の議決権(株式・持分)の過半数を保有することができるか、という点です。

一般に、企業が新規事業を始める際には、本体である自社内に一部門を立ち上げたり、子会社を設立したりします。自社内の一部門であれば、同じ法人であることからコントロールできることは当然ですが、別会社として事業を始める際にも、通常は過半数(多くは100%)の株式を保有し、コントロールできるようにします。

しかし、農地所有適格法人の要件に「議決権要件」(農業関係者が総議決権の過半を占めること)があるため、企業が過半数の株式(正確には議決権ですが、ここでは便宜的に株式としています。)を保有することができません。そのかわりに、農業従事者が株式の過半数を保有することが求められています。

このように、農地所有適格法人の要件を満たすため、設立する農業法人の代表者となる者などに過半数の株式を保有させることが必要です。つまり、株式の過半数(あるいはそれ以上)を保有することによって子会社をコントロールするという通常の方法を取ることができません。

これに対し、農地をリースする場合には、必ずしも農地所有適格法人の要件を満たす必要はありませんので、設立する農業法人の株式のすべてを企業が保有することも可能です。つまり、完全子会社として農業に参入することができます。

このように、農地を所有するか、またはリースするかという問題は、農業を行う農業法人をコントロールすることができるか、という問題に大きくかかわっています。

農地所有適格法人のコントロール

では、農業を行う会社をコントロールするためには必ず農地をリースする方法でなければならず、農地を所有することは事実上不可能なのかというと、必ずしもそうではありません。

まず、新規参入しようとする企業は、過半数に至らない議決権までは保有することができますので、その限度で株式を保有することが通常です。そうすることで、一定のコントロール(例:重要事項の事実上の拒否権)が可能です。

これに加え、過半数の株式を保有する農業法人の株主(自社からの出向や転籍した役職員であったり、もともと農業を行っていた新規採用者であったりします。)との間で契約を締結することで、一定のコントロールをすることが可能です。

これは、合弁会社(ジョイントベンチャー)を設立する際に、他社との間で合弁会社の運営等について契約を締結することをイメージするとわかりやすいと思います。

このような形で、農地所有適格法人の要件を満たしつつ、農業法人に一定のコントロールを働かせることができます。そして、実際にこのような方法によって農業に参入している企業も少なくありません。

この際には、株主となる者との間でどのような契約を締結すべきかは、よく検討する必要があります。

企業による農業への新規参入の際には、農地法の規制をはじめとして様々な検討すべき法的課題があります。この検討をおろそかにすると農業への参入が頓挫してしまったり、参入後に問題が発覚して事業を停止せざるを得ない状況になってしまったりすることがあります。

もっとも、きちんと検討をすれば規制をクリアする方法があるはずですので、新規参入を検討する際には、実際に農業を行う会社へのコントロールという観点を踏まえていただければと思います。

農業への新規参入に関するご相談をお受けしておりますので、お気軽にお問合せください。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す

*