全面コンクリート張り農地の“農地”化

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農業の人手不足対策、生産性向上のためにスマート農業をはじめとした機械化、ロボット化を進めることが重要であることは、もはや共通認識といってもよい状況です。機械化、ロボット化を進めるために農地の底面を全面コンクリート張りにした場合、これまでの取り扱いではその土地は農地法における“農地”ではないものと扱われ、農地である場合の税務面のメリットなどを受けることができなくなっていました。

このような現状を変えるため、今年5月11日に農地法を改正する法律が成立し、全面コンクリート張りの農業ハウスなども、引き続き“農地”として取り扱われることになりました。

スマート農業と農地

農業者の高齢化が進む中、国の施策の一つとして、人手不足解消のためのスマート農業の推進が掲げられています。また、農業の生産性は低いと言われていますが、スマート農業は生産性の向上にも役立つことから、この観点からもスマート農業に取り組む動きが活発です。

スマート農業の一つとして、機械化、ロボットの活用がありますが、製造業での工場内での作業と異なり、農業の機械化、ロボット化は農地の形状が一定ではないため、ハードルが高いと言われています。たとえば、農作業を行ったり補助する機械が農地を走行しようとする場合、やわらかかったり、でこぼこしていたりする土の上を安定して走行することは簡単ではなく、そのハードルを越える機械を製作するとコストが増加してしまって実用的ではなくなってしまうというジレンマがあります。

そこで、発想を転換して、機械、ロボットが作業しやすい環境にするという方法がとられています。その一つが、機械、ロボットが走行する農地の底面をコンクリート張りにして安定走行を実現するという方法です。

そのほかにも、温度や湿度を管理することで安定的な収量を確保することが可能になりますが、温度や湿度の管理をしやすくするために底面を土のままではなくコンクリートで覆うという方法も取られています。

このように、これまでもスマート農業の実現の方法として、農地の底面をコンクリート張りにするという方法がとられてきました。しかし、この方法の大きなデメリットは、底面を全面コンクリート張りにすることで、その農地が農地法における“農地”ではなくなってしまい、“農地”であることのメリットを得ることができなくなってしまうことでした。

農地の定義とこれまでの取り扱い

農地法では、“農地”を「耕作の目的に供される土地」と定義しています。そして、農水省の通知では、“耕作”を「土地に労費を加え肥培管理を行って作物を栽培すること」と定義しています。

この定義に基づき、これまでの取り扱いでは、「農地に形質変更を加えず、棚の設置やシートの敷設など、いつでも農地を耕作できる状態を保ったままで、その棚やシートの上で農作物を栽培している土地」であれば農地法上の“農地”として取り扱うことにしていましたが、「農地をコンクリート等で地固めし、農地に形質変更を加えたもの」は“農地”に該当しないものと取り扱っていました。

つまり、農地の底面を全面的にコンクリート張りした場合には、“農地”に該当しないことになり、それまで“農地”であったものを転用したものと扱うことになっていました。

その結果、機械、ロボット等を導入するために底面を全面的にコンクリート張りにする場合には、農地の転用の手続きが必要でした。そして、“農地”ではなくなることから、税務上のメリットを受けることができなくなっていました。

農作物栽培高度化施設

上記の取り扱いは、平成14年に農水省が定めたものでしたが、その後、機械化、ロボット化が進んでいっただけでなく、国の施策としてもスマート農業を推し進めることとなり、このような取り扱いは実態にそぐわなくなってきていました。

そこで、今年5月11日に農地法を改正する法律が成立し、農地の底面を全面コンクリート張りした場合でも、引き続き農地法上の“農地”として取り扱われることができるようになりました。

改正された農地法では、「農作物の栽培の用に供する施設であって農作物の栽培の効率化又は高度化を図るためのもの」を“農作物栽培高度化施設”とし、この“農作物栽培高度化施設”の底面をコンクリート張りにした場合でも、農作物の栽培が“耕作”に当たるものとみなすことになりました。その結果、この“農作物栽培高度化施設”では、底面を全面コンクリート張りしても、引き続き農地法上の“農地”として取り扱われることになります。

もっとも、この改正法の下で引き続き“農地”として扱われるためには、あらかじめ農業委員会に届け出る必要がありますので、この点は注意が必要です。

また、具体的にどのような施設が“農作物栽培高度化施設”に当たるのか、農業委員会への具体的な届出手続等については、今後公表されることになりますので、この点についても引き続き注目していく必要があります。

 

なお、改正後の農地法では、以下の第43条と第44条が新設され、“農作物栽培高度化施設”について規定しています。

(農作物栽培高度化施設に関する特例)

第43条

  1. 農林水産省令で定めるところにより農業委員会に届け出て農作物栽培高度化施設の底面とするために農地をコンクリートその他これに類するもので覆う場合における農作物栽培高度化施設の用に供される当該農地については、当該農作物栽培高度化施設において行われる農作物の栽培を耕作に該当するものとみなして、この法律の規定を適用する。この場合において、必要な読替えその他当該農地に対するこの法律の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
  2. 前項の「農作物栽培高度化施設」とは、農作物の栽培の用に供する施設であって農作物の栽培の効率化又は高度化を図るためのもののうち周辺の農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれがないものとして農林水産省令で定めるものをいう。

第44条

農業委員会は、前条第一項の規定による届出に係る同条第二項に規定する農作物栽培高度化施設(以下「農作物栽培高度化施設」という。)において農作物の栽培が行われていない場合には、当該農作物栽培高度化施設の用に供される土地の所有者等に対し、相当の期限を定めて、農作物栽培高度化施設において農作物の栽培を行うべきことを勧告することができる。

まとめ

法律の制定や改正は技術の発展に追い付かず、後追いになってしまうことがほとんどですが、スマート農業を進めていくためには規制緩和や新たな法律の制定が必要になることもあります。そのため、スマート農業のためのロボット等やシステム開発を行う際には、のちに違法であることが判明して行き詰まることがないように事前に法規制についての検討をすることが重要です。

もっとも、法規制がある場合でも、その規制にかからないようにしたり、規制を変更したりするための方策もありますので、規制があるからといってすぐにあきらめる必要はありません。いずれにしても、まずは規制があるのかといった確認が出発点です。

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