農産物と商標法・地理的表示(GI)

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地理的表示

自社や自社の商品のブランディングを成功させるためには、ブランドを守ることにも注意を払わなければなりません。そうでなければ、時間と費用をかけて育て上げたブランドをいとも簡単に他人に使用されてしまい、ブランド価値はズタズタにされてしまうかもしれません。

農産物のブランド価値を守るための方法としては、何よりもまず商標法や地理的表示(GI)といった制度を活用することが重要です。

商品名の重要性

スーパーで果物売場や野菜売場、精肉売場を見てみると、単に「リンゴ」や「じゃがいも」、「しいたけ」、「牛肉」といった表示だけではなく、「●●リンゴ」や「〇〇じゃがいも」、「△△しいたけ」、「☆☆牛」といった商品名が付いた商品が数多く売られています。近年、このような商品名が付けられた農産物・畜産物が増えています。これは、自社の農産物等のブランディングを行い、商品に特別な名称を付けたものです。

商品名を付けることにより、他の同種の商品との違いを明らかにすることができるようになります。ブランディングのためには、他の商品との違いを消費者に理解してもらうことが重要ですので、商品名はこの違いを示す重要なポイントになります。

商標法による名称の保護

農産物等に商品名を付けたとしても、その商品名を他人に自由に使用されてしまってはブランディングを成功させることはできません。築き上げたブランド価値をタダで利用されてしまうこともありますし、低品質の商品を販売されることでブランド価値が下がってしまうこともあります。

このようなことを避けるためには、商品名を他人に使用されないようにしなければなりませんが、そのためにあるのが商標法です。

商標とは

商標とは、“事業者が、自己(自社)の取り扱う商品・サービスを他人(他社)のものと区別するために使用するマーク(識別標識)”です。(特許庁HPより引用)

商品名だけでなく、ロゴマークやマスコットも商標として保護の対象になります。そして、平成27年からは、音楽や音声、動きのあるものなども商標として保護されるようになりました。

商標権は、単にマークだけでそのまま権利として認めているものではなく、マークと商品やサービスを組み合わせて権利として認められています。そのため、マークを商標登録する際には、特定の商品やサービス(“加工野菜”や“加工果物”など)を指定する必要があります。

商標登録の手続

商標登録を受けるためには、特許庁に商標登録出願をする必要があります。

特許庁では商標登録出願された商標について、登録の可否を審査しますが、以下のような商標は登録することができません。

①自己の商品・役務と、他人の商品・役務とを区別することができないもの

単に“リンゴ”という名称では他人の商品と区別することができませんので、このような普通名称や慣用された名称などは登録することができません。

②公益に反する商標

卑わいな商標であったり、差別的や不快な印象を与えたりする商標などは登録できません。

③他人の商標と紛らわしい商標

既に他人が登録している商標と全く同じ場合だけでなく、他人の商標と類似していて紛らわしいものについても登録することはできません。

登録が認められて登録料を納付すると、商標登録原簿にその商標が登録され、商標権が生じます。

商標登録の効果と期間

商標権が発生すると、その商標について指定された商品・役務に関して、商標権者は独占して商標を使用することができるようになります。したがって、他人が無断で商標を使用した場合、使用を中止させるために差止請求をしたり、無断使用によって被った損害の賠償を求めたりすることができます。

商標権は登録から10年間で終了しますが、更新の手続きをすることでさらに10年間存続します(その後も更新し続けることができます。)。

地域団体商標

農産物は気候や土壌といった環境によって品質や特性が大きく異なることから、農産物にとって産地は非常に大きなファクターの一つです。実際に、消費者は同じ野菜や果物であっても、どこで生産されたものかで選ぶことも少なくありません。

このように、農産物にとっては地域名と商品名を組み合わせた商標は価値のあるブランドとなり得るものでありながら、従来の商標法では、単に地域名と商品名を組み合わせた商標は、他人の商品と区別することができないといった理由から、商標登録が認められていませんでした。

そこで、平成17年の商標法改正(平成18年施行)により、地域団体商標制度が創設されました。

地域団体商標を登録するためには、主に以下の要件を満たす必要があります。

①登録しようとする商標が“地域名”+“商品名”といった文字でできていること

②出願者が(ア)地域の事業協同組合、農業協同組合等の組合、(イ)商工会、商工会議所、(ウ)特定非営利活動法人(NPO 法人)のいずれかであること

③登録しようとする商標が登録しようとする団体及びそのメンバーが使用する商標として需要者の間で広く知られていること

地域団体商標として登録されれば、無断で商標を使用する者に対して差止請求や損害賠償請求をすることが可能になり、地域ブランドを守ることができるようになります。

地理的表示(GI)とは

農産物にとって産地は消費者が重視するポイントの一つですが、それは産地と品質・特性が結びついていると消費者が考えているためです。例えば、“夕張メロン”と聞くと、夕張で採れたメロンというだけではなく、甘く香りのよい、オレンジ色のメロンを消費者は思い浮かべます。このように産地と品質・特性が結びついて消費者に訴えかけることができることから、生産者は産地と野菜や果物の名前を組み合わせた名称を使用し、ブランドとして確立してきました。

産地と商品名を組み合わせた名称はこれまでも重要なものとして使用されていましたが、商標法では単に産地のみを表示する商標を登録することは認められていなかったため、地域名を商標に加えることができるように地域団体商標の制度が作られました。しかし、地域団体商標制度はあくまでも商標法の保護を受けられるだけであり、さらに進んで国が農産物等のブランドを地域の共有財産として保護する制度の創設が求められるようになりました。

そこで、産地と品質の結びつきについて国がお墨付きを与え、地域が長年の努力によって育て上げたブランドをより強力に保護するための制度が作られました。それが、地理的表示(GI)制度であり、平成27年に特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(GI法)が施行されました。

地理的表示(GI)とは

この法律では、「農林水産物・⾷品等の名称で、その名称から当該産品の産地を特定でき、産品の品質等の確⽴した特性が当該産地と結び付いているということを特定できる名称の表示」(農水省HPより引用)を“地理的表示”(GI:Geographical Indication)として登録することができます。

そして、登録された地理的表示産品には、GIマークを付けることができ、真正な地理的表示産品であることを証することができます。

地理的表示の登録手続

地理的表示の登録手続は以下のとおりです。

①生産・加工業者の団体が申請書と添付書類を提出することにより申請

生産・加工業者自身が登録申請をすることはできず、団体による申請でなければなりません。また、添付書類には、品質基準を定めた明細書や品質管理業務について定めた生産行程管理業務規程などが含まれます。

②農林水産大臣が審査し、地理的表示と団体、品質基準を登録

申請受付後、3ヶ月間の第三者からの意見聴取期間が設けられ、その後に学識経験者の意見聴取を経て、農林水産大臣による審査が行われます。登録が認められると、農水省のホームページ(http://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/notice/index_r.html)で公示されます。

品質管理

生産・加工業者団体は、生産行程管理業務規程にしたがって、団体のメンバーである生産・加工業者が明細書に記載された品質基準に適合した生産を行うように指導や検査を行います。

そして、農林水産大臣は、生産行程管理業務が適切に行われているか、チェックを行います。そのため、年1回以上、農林水産大臣に実績報告書を提出することになります。

地理的表示登録の効果と期間

地理的表示の不正使用(基準を満たしていない商品に地理的表示を付けている場合や登録団体のメンバーではない者が地理的表示を付けて販売している場合)が行われていることを知った者が農林水産大臣に通報すると、農林水産大臣は、調査の結果、不正使用が認められれば地理的表示やこれに類する表示の除去または抹消を命じることになります。また、輸入業者によって輸入された不正品については、譲り渡しを禁止することになります。なお、この命令に従わない場合には、不正使用をしている者に対して罰則が科されることがあります。

地理的表示と商標権の大きな違いの一つが、地理的表示は不正使用に対して国が取り締まりを行うという点です(地域団体商標を含めて商標権の場合には、商標権者自身が不正行為を差し止めるなどの対応を取る必要があります。)。

また、地理的表示は商標権と異なり、有効期間がないことから更新手続きもありません。

地理的表示と地域団体商標

地理的表示と地域団体商標は地域ブランドを保護するという目的は同様ですが、地域団体商標はあくまでも商標権(出所表示)として保護するものであるのに対し、地理的表示は産地と品質・特性を直接結びつけている点が大きな違いです。そして、地理的表示は不正使用に対して国が取り締まりを行うことになる点も重要です。

地理的表示と地域団体商標の双方の登録をすることもできますので、それぞれのメリットを踏まえて、いずれか一方または両方の登録について検討することになります。

まとめ

農産物のブランディングのためには、農産物の商品名によって他の農産物との違いを消費者に認識してもらうことが必要ですが、そのブランドの価値を守るためには法的な保護についても注意を払わなければなりません。

特に、農産物は産地との結びつきが重要なファクターの一つになりますので、通常の商標権による保護だけではなく、地域ブランドとなっている農産物については、地域団体商標や地理的表示(GI)といった制度を活用していくことも有効です。

その他、品種を財産権として保護する種苗法といった法律もありますので、ブランディングをする際には多面的に法的な保護を受けることができように検討することが重要です。

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