農産物の瑕疵担保責任と契約書

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

農産物の取引のために売買契約書を締結することとなった場合、その中に“瑕疵担保責任”という条項があることがあります。その条項では、「商品の受領後6ヶ月以内に商品に隠れた瑕疵が発見された場合、売主は買主に対して損害賠償責任を負う。」といったことが規定されています(損害賠償責任以外に代替品の納入や代金の減額などが規定される場合もあります。)。

この条項に基づき、売主は不具合(キズや傷みなど)のある商品を納入した場合には損害賠償責任等を負うことになります。しかし、この瑕疵担保責任の規定を設ける際に、一般的な売買契約のひな型をそのまま使用すると農産物の取引の実態にそぐわないことになることがあります。その結果、売主が過度の負担を負うこととなる可能性がありますので、その内容に注意が必要です。

瑕疵担保責任で問題になること

農産物取引の瑕疵担保責任に関する契約条項でしばしば問題になるのは、以下の3点です。

①“瑕疵”に当たるのか

②いつまで瑕疵担保責任を負うのか

③いつ瑕疵が発生したのか

そして、さらに契約書を締結する際にどのような対応をすべきか、どのような点に注目しておくべきかを把握することが大切です。

①瑕疵に当たるのか

“瑕疵”とは

“瑕疵”とは、キズのことです。もっとも、ここでの“瑕疵”は実際に商品についたキズだけを指すのではなく、契約の内容に適合しないことを意味しています。売買契約を締結した場合、契約においてそのスペック等を細かく指定することがありますが、この場合にはその契約の内容は明らかですので、“瑕疵”があるかの判断もしやすくなります。農産物で言えば、等級やサイズなどを指定して契約をすれば、この等級やサイズに適合していない商品は“瑕疵”があることになります。

また、このようなスペックの指定がないとしても、売主と買主の間で当然の前提となっている内容は契約の内容になっていると考えられます。農産物で言えば、通常は食べられる商品であることは当然の前提であることから、腐っていたり病気になっていたりして食べられない状態の商品だった場合は、“瑕疵”があることになります。

売買対象の商品に“瑕疵”がある場合には、損害賠償請求を受けたり、契約が解除されることがあります。さらに、契約によって、代替品の納入義務が課されたり、代金額を減額するといったことが規定されていることも少なくありません。

契約書での対応

「瑕疵があるか」ということは、別の言い方をすると「契約の内容に適合しているか」ということになります。そのため、瑕疵の有無を判断するためには、契約の内容が重要なポイントになります。

このような観点からすれば、契約書にできるだけ詳しく農産物の品質や等級、大きさ、重さなどを記載することが望ましいでしょう。また、必然的に生じるキズなどについては、瑕疵に当たらないことを明記する(“瑕疵”から除外する)という対応も考えられます。

このようにすることでトラブルとなることを避けることができますので、売主だけでなく、買主にとってもメリットがあります。

②いつまで瑕疵担保責任を負うのか

瑕疵担保責任の期間

売主の瑕疵担保責任は無期限に続くものではなく、民法では“瑕疵”を知った時から1年間とされています。もっとも、売主も買主も事業者である場合には商法が適用されますので、この期間は商品の受領から6ヶ月間に短縮されます。

法律上の期間は1年間(6ヶ月間)とされていますが、この期間を契約によって短縮したり、延長したりすることは可能です。実際に、事業者間の取引であっても瑕疵担保責任の期間を1年間(あるいはそれ以上の期間)としたり、反対に6ヶ月未満の短期間にすることもしばしば行われています。さらに、契約によって、そもそも瑕疵担保責任を負わないとすることも可能です。

契約書での対応

契約における瑕疵担保責任の期間は、法律上の期間である1年間や6ヶ月間を基本として定められることが多くなっています。そのため、売買契約書のひな型では、瑕疵担保責任の期間を6ヶ月~1年間としているものがほとんどです。

一般的な工業製品であればこのような期間設定でも大きな問題となることはあまりありません。しかし、農産物の場合には、時間の経過とともに傷んでしまいますので、6ヶ月間~1年間という長期間にわたって食べられる状態を保つことは難しいことがほとんどでしょう。そのため、一般的なひな型をそのまま使用すると実態に合わない責任を売主が負うこととなる可能性があります。

そこで、農産物の売買取引では、その農産物ごとに適切な瑕疵担保責任を負う期間を設定する必要があります。傷みの早い農産物であれば2~3日ということもあるでしょうし、傷みにくいものでも数ヶ月間も品質を保てることはほとんどないでしょう。

このように、農産物の取引については、その特性にあわせて個別に期間設定をしていくことが重要です。

③いつ瑕疵が発生したのか

瑕疵の発生時期

3つ目のポイントとしては、いつ瑕疵が発生したのかということが挙げられます。瑕疵の発生時期によって、売主が瑕疵担保責任を負うのかどうかが決まるため、瑕疵の発生時期は重要なポイントになります。

通常、売主が瑕疵担保責任を負うのは、商品を買主に引き渡して所有権が移転するよりも前に発生した瑕疵についてのみです。商品を引き渡して所有権が移転したのであれば、その商品は買主の管理下にあると考えられ、売主が管理できない状況で生じた瑕疵にまで売主が責任を負うのは不合理であるためです。そのため、瑕疵が商品の引渡し後に生じたのであれば、売主はその瑕疵について責任を負いません。

このように、瑕疵の発生が引渡しの前であったのか後であったのかがポイントとなりますが、そうなるとどのような行為があれば引渡しと言えるかを明らかにする必要があります。特に、運送会社に依頼して商品を輸送する場合、運送会社に渡した時点で売主から買主に引き渡したこととなるのか、それとも買主が運送会社から受け取ったときに引渡しになるのかが問題となります。

このように、発生した瑕疵について売主と買主のいずれが責任を負うのかということを決めるために、瑕疵がいつ発生したのか、引渡しがされたか否かは重要なポイントになります。

契約書での対応

契約書を締結する際には、どの時点で引渡したと認められるのかを明確にすることが重要です。特に運送会社に輸送を依頼する場合には、運送会社に受け渡した時点で買主に引き渡したこととするのか、それとも運送会社から買主が受け取った時に引き渡したこととするのかをはっきりとさせることが必要です。なお、輸送中に瑕疵が生じた場合には、瑕疵担保責任とは別に、運送会社に対して損害賠償請求をすることが可能な場合もありますので、運送会社への請求を検討することも必要になります。

また、瑕疵がいつ発生したのかをどのように証明するのかという問題への対応も必要です。売主としては、出荷時に契約通りの農産物であるかについて検査を行い、記録を残しておくべきでしょう。写真を撮影しておくことも記録の方法として有用です。また、買主としては、受領後すぐに検査をして、契約どおりの内容の農産物であるかを検査しなければなりません。一般的には時間が経てば経つほど、瑕疵が受領前に生じたことを証明することが難しくなっていきます。このような検査方法や検査時期、問題があった場合の対処方法についても、契約書に明記することが必要です。

売主から運送会社への受け渡し時に瑕疵がなかったにもかかわらず、買主が受領した時点では瑕疵が生じていたのであれば、それは輸送中に瑕疵が発生したことになります。輸送中に瑕疵が発生した場合は、契約書の規定に基づいてまずは売主または買主が責任を負うことになりますが、最終的には運送会社に対して責任を追及することができることになります。

 

多くの契約書では瑕疵担保責任の規定が設けられていますが、その意味の把握と農産物の特性を踏まえた条項作りをしなければ、いずれかの当事者に過度の負担となったり、意味のない規定になることがありますので、契約書のひな型をそのまま使用しないように注意が必要です。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す

*