農産物取引の契約書の種類と作り方

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
農産物取引契約書

農産物の取引には、農産物の特徴を踏まえた契約書を作らなければなりません(詳細は“農業ビジネスと契約書の必要性”をご覧ください。)。

農産物の取引は基本的に全て売買契約です。契約書の名称は様々なものがありますが、農産物の取引は、農家や農業法人が生産した農産物を小売業者・レストラン・加工業者などに売る(小売業者などが買う)という売買契約です。

このように農産物の取引は売買契約が基本となっていますが、その内容を見ていくと農産物の特徴や取引の形態に応じて、いくつかのバリエーションがあります。

直接取引に関わる契約の種類

農産物の直接取引に関わる契約の種類としては、次の3つが挙げられます。

  1. 通常の売買契約
  2. 取引基本契約と個別契約
  3. 契約取引

1. 通常の売買契約

農家・農業法人といった生産者と小売業者やレストランなどの取引先が、1回限りの取引をする場合は、この通常の売買契約を締結することになります。結果として複数回の取引を行ったとしても、一つ一つの取引を独立したものとして扱った場合には、この通常の売買契約に当たります。

通常の売買契約では、以下のような取引条件を契約書の中で定めることになります。

  1. 取引する商品
  2. 取引する量
  3. 売買代金
  4. 売買代金の支払方法
  5. 商品の引渡時期・方法
  6. 所有権の移転時期・危険負担
  7. 商品に瑕疵・問題があった場合の取扱い
  8. 契約の解除
  9. 義務違反時の損害賠償
  10. 裁判となった場合の管轄

特に、農産物は工業製品と異なり、全く同じ商品は二つとないことから、“A. 取引する商品”を明確にしておかなければなりません。例えば、取引する商品として「米」と記載しただけでは、対象がどのような米であるのかはっきりしません。取引する商品を明確にしておかなかったため、生産者は2等米でも問題がないと考えて2等米を納入したところ、取引先から「1等米でなければダメだ」と言われるトラブルが発生することもあります。

取引する商品を明確にするためには、品種、産地、等級、大きさ、重さなど一般的にその農産物の品質を表す指標などを記載することが必要です。このようにすることで、取引先と認識の違いをなくすことができ、後にトラブルとなることを防ぐことができます。

その他、“C. 売買代金”や“D. 売買代金の支払方法”は代金回収のために重要な規定ですし、“E. 商品の引渡時期・方法”は納期遅れなどの責任を問われないようにするためにも、はっきりとさせておかなければなりません。

2. 取引基本契約と個別契約

複数回または長期間にわたる取引が予定されている場合、その都度売買契約書を作るのは手間がかかります。そこで、大枠の取引条件を定めた取引基本契約書を作っておき、個々の取引ごとに個別契約で取引量や価格を決めるという方法が取られます。

取引基本契約を作る場合は、1. 通常の売買契約に記載したA~Jの事項に加え、必要に応じ以下のような規定を盛り込むことになります。

  1. 個別契約の成立方法
  2. 契約期間
  3. 途中解約の可否
  4. 購入予定量の通知
  5. 最低購入量

“a. 個別契約の成立方法”については、多くの場合、買主が注文書をファックスやEメールで売主に送り、売主が注文請書を送ることで成立するといった簡単な方法が取られています。こうすることで、毎回売買契約書を作るという手間を避けることができます。もっとも、合意した内容を明確にしておく必要がありますので、注文は“注文書”のような書面により行い、注文の受諾も“注文請書”のような書面を作る方がよいでしょう。

個々の取引量や金額については、この個別契約成立時に決めることになります。注文書に取引量や金額を記載し、注文請書でそれを確認することになります。

“b. 契約期間”や“c. 途中解約の可否”は、どの程度の期間、取引を続けるかに関わるものです。特に、“c. 途中解約の可否”については、突然契約を解約され、予定していた売り先がなくなるという事態に陥ることもありますので、取引先の途中解約を認めるか慎重に検討が必要です。

その他、生産者としては出荷計画を立てられるようにするため、数ヶ月後までの購入予定量を通知してもらうことを求める場合もありますが、その場合は“d. 購入予定量の通知”を定めることになります。なお、この通知が買主の購入義務を伴うものであるのか、あくまでも予定であって購入義務はないのかについては、明確にしておく必要があります。

さらに、一定期間(例:1年間)に一定量の商品を購入しなければならないという“e. 最低購入量”を決めることもあります。こうすることで、安定的な取引を行うことができます。

3. 契約取引

2. 取引基本契約と個別契約に似ているものとして、3. 契約取引があります。

契約取引とは、農産物の種まき前に農家・農業法人などの生産者が取引先と農産物の価格、数量、対象(品質)について取決める取引のことです。

この契約取引のポイントは農産物の種まき前に取引内容を決める点にあります。この点が取引基本契約と大きく異なります。取引基本契約は、契約締結時点では取引の大枠だけを決めておき、価格や量については個々の注文(個別契約)の時点で決めることになります。そのため、個々の注文時に必要な量・出荷可能な量を決めることができ、価格も注文時(個別契約成立時)の相場を踏まえて決定することができます。

しかし、契約取引の場合には、種まきをする前に量や価格について決めることになりますので、天候不順などによる不作リスク、価格リスクをどのように回避するかが問題となります。

加えて、種まき前に合意していた取引条件について、取引先から変更を求められる場合もあります。例えば、取引先の需要見込みが外れたため、取引数量を減らすように求められたり、市場価格が下がったことを理由として、納入価格を下げるように求められたりすることがあります。

そのため、契約取引の場合には、1. 通常の売買契約や2. 取引基本契約と個別契約の場合と異なり、契約書の中で不作リスクや価格変動リスク、需要変動リスクにどう対応するかを定めておく必要があります。

この際、どのようなリスクを引き受けることができ、どのようにリスクを回避できるかを見極めて、優先順位を付けることが重要です。例えば、生産した農産物が売れないリスク(売れ残りリスク)を回避する代わりに価格変動リスクを引き受けることを受け入れるのであれば、価格は想定される相場よりも安くし、その代わりに取引先は生産した農産物の全量を買い取る義務を明確化する(この義務は変更できないこととする)ということになります。

その他にも、リスク回避の方法として、合意した取引条件を変更できる場合を限定した規定を設けるというものがあります。例えば、米であれば作況指数が一定以下であれば納入しなければならない数量を減らすといった方法が挙げられます。

いずれにしても、契約取引は不確定要素が大きいため、まずどのようなリスクがあるか把握し、そのリスクを生産者と取引先のいずれが引き受けるかを契約書に明記しておくことが重要です。そして、引き受けることとなったリスクを回避する方法を検討し、必要に応じて契約書に規定を盛り込むこととなります。

契約書の作り方

農作物の直接取引は画一的なものではないため、それぞれの取引に応じた契約書を作ることが必要です。そうすることで、予想していなかった責任を負うことととなったり、一方的にリスクを負わされることを避けたりすることができます。

そして、契約書を作る際には、工業製品とは異なる農作物の特徴を踏まえたうえで、実際の生産と取引の流れに応じた農作物の取引契約を作ることが重要です。

その際には、一般的な契約書のひな型をそのまま使うのではなく、弁護士などの専門家を活用しながらリスクを把握、低減できるような契約書を作ることを目指すとよいでしょう。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す

*