農業ビジネスと契約書の必要性

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農産物取引

農協や卸売市場に出荷する場合には、一般的には画一的な取扱いがされており、大きなトラブルとなりにくいことから、“契約書”の必要性が感じられないかもしれません。

しかし、スーパーマーケットなどの小売業者や食品加工業者、食品商社などとの直接取引は、取引先ごとに取引の内容が全くと言ってよいほど異なっています。そのため、実はお互いの認識がずれていることがしばしばあります。

このような場合に、この認識をすり合わせる交渉をせず、“契約書”を作らないままに取引を進めると、後に大きなトラブルとなってしまいます。

このようなトラブルを防止するために、直接取引が拡大している農業にも“契約書”が必要になっているのです。

取引相手とのトラブル

“契約書”を作らずに取引を進めると、どのようなトラブルが起こることがあるのでしょうか。そして、“契約書”を作っておくことで、どのようにトラブルを回避することができるのでしょうか。まずはいくつか例を挙げて、この点について考えてみたいと思います。

トラブルの内容 契約書がない場合 契約書での対応
商品代金を払わない ・支払期日がはっきりしないため認識のずれがある

・ほかの未払金をすぐに回収できない

・遅延損害金が法律どおり(6%)

・支払期日を明確化することで誤解をなくすことができる

・複数の未払金がある場合、期限が来ていない未払金の期限の利益を失わせることで全ての債権を早期に回収することができる

・遅延損害金率を上げることで損害の回復を図りやすくなる

商品が違うと言われる ・納入する商品の質が不明確なため、代金を支払ってもらえなかったり、損害賠償請求をされたりする ・納入商品の質を明確化することで理解を一致させる
天候不良で不作だった ・天候不良であっても、注文を受けた質のものを全量納入するよう求められる ・天候不良の場合には納入義務を免除したり、質・量を変更できるといった規定を設けることで、責任を回避できる
商品が台風で全滅した ・商品を納入できないことによる損害賠償請求を受ける ・台風のような自然災害の場合には、納入義務を負わないことを明確化して、責任を回避することができる
輸送中の交通事故で商品が全てダメになった ・代替品を納入するよう請求される ・輸送中の滅失・毀損についての責任を明確化することにより、責任を負わないようにしたり、保険をかけるなどの責任回避が可能になる

このように、“契約書”を作らずに取引を進めると、取引先との認識の違いが残ったままとなることによって後にトラブルとなったり、農家・農業法人としてコントロールできない天候や自然災害にまで責任を負わなければならない事態となることがあります。

そのため、①この認識の違いを埋め、②コントロールできないことについての責任を適切に分配するために、“契約書”を作るべきなのです。“契約書”を作ることによって、“契約書での対応”に記載したようなリスク回避を図ることができます。

農産物の契約の特徴

農産物の取引についての契約書を作る場合、一般に公開されている売買契約書のひな型を使うことが多いかもしれません。

しかし、農産物の取引について、一般に公開されている契約書をそのまま使用すると、生産者は大きなリスクを負う可能性があります。それは、農産物が持つ特徴に由来するものです。

一般的な契約書は、工業製品が念頭にあることがほんとんどです。工業製品は、あらかじめ定められたスペック(仕様)のものを大量に製造できることが前提となっています。そのため、契約書においても、同じものを数多く作ることができる、言い換えると製造業者は製造物の質と量をコントロールすることができることを前提とした規定になっています。

しかし、農産物は異なります。農産物の質や量は生産者が完全にコントロールすることはできません。同じ農産物でも、去年作ったものと完全に同じ品質であることはあり得ません。量についても、大きさが少しずつ違います。そのため、去年と同じ畑で同じ作物を栽培しても、去年と同一の質・量の農産物を生産することは不可能です。

このように、農産物は人が完全にコントロールすることは不可能です。そのため、契約書を作る際に、人がコントロールできることが前提とされた工業製品のための契約書をそのまま使ってしまうと、生産者が過大なリスクを負わされてしまうこととなります。

だからこそ、農産物については、農産物の特徴を踏まえた契約書を作らなければならないのです。

 

このように、農産物の直接取引をする場合、契約書を作ることがとても重要ですが、それは農産物の特徴を前提としたものでなければなりません。

契約書の具体的な内容や作り方については、“農産物取引の契約書の種類と作り方”をご覧ください。

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