農業法人設立の手続きと報告義務

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“農業法人”という用語は法律に定められたものではなく、農業ビジネスを経営している法人の総称です。その中でも、農地を所有することができる条件を満たしたものが、“農地所有適格法人”です。(条件については“農地所有適格法人と農業への参入”をご覧下さい。)

農地所有適格法人には、(a) 株式会社(公開会社でないもの)、(b) 農事組合法人、(c) 持分会社(合名会社、合資会社、合同会社のこと)の3つの形態がありますが、ここでは最も一般的な農業法人である株式会社の設立手続と農地所有適格法人が行わなければならない農業委員会への報告について解説します。

株式会社設立の手続き

株式会社設立の流れは以下のとおりです。

①基本的事項の決定・準備

②定款の作成・認証

③資本金払込み

④会社設立登記

⑤銀行口座開設・税務署等への届出

この5つのステップを経ることで、株式会社を設立し、事業を始めることができます。

①基本的事項の決定・準備

株式会社を設立することとなった場合、最初に以下の基本的事項について決定・準備する必要があります。

・会社の目的

会社が行おうとする事業を決めます(農業や農業サービス業など)。会社はここで決めた事業目的の範囲内でしか事業を行うことができません。

・会社の商号

会社の名称です(株式会社XYZファームなど)。

・本店所在地

会社の所在地を決めます。

・資本金額

会社設立時に出資する金額です。

・株主構成

誰が株主となり、それぞれどの程度の割合の株式を所有するかを決めます。なお、農地を所有できる農地所有適格法人となるためには、農業関係者が総議決権の過半を占めることが必要です。(詳しくは、“農地所有適格法人と農業への参入”をご覧ください。)

・会社の機関、役員

株式会社には、取締役、取締役会、監査役、監査役会など色々な機関を設置することができますが、最低限取締役1名がいれば、会社を設立することができます(取締役会も不要です。)。会社の規模や状況に応じて取締役会や監査役を設置するなど、会社の機関設計を変更していくことも可能です。

また、取締役構成については、農地所有適格法人となるために条件がありますので、注意が必要です。(詳しくは、“農地所有適格法人と農業への参入”をご覧ください。)

・会社の印鑑

  会社の設立時から会社の印鑑が必要となりますので、印鑑を作成します。

②定款の作成・認証

定款とは、会社の重要事項を定めた根本規範です。株式会社を設立するためには、定款を作成しなければなりませんので、①基本的事項の決定・準備で決めた事項に従って、定款を作成します。

定款を作成した後は、公証人による認証を受けなければなりません。公証役場に行き、手数料を支払って定款を認証してもらいます。

なお、現在は、紙の定款ではなく電子定款を作成し、電子認証を受けることも可能です。

③資本金払込み

会社設立登記申請時には、資本金を払い込んだことを証明する書面を提出する必要がありますので、登記申請前に定款に記載された資本金を払込みます。

資本金の払込みをするために、発起人(会社の設立者)が銀行口座を開設し、その口座に資本金を振り込みます。この銀行口座の通帳のコピーも登記申請に必要です。

④会社設立登記

資本金の払込み後に登記申請を行います。登記申請書や認証を受けた定款、払込みを証する書面、印鑑届出書など必要書類一式を法務局に提出します。

登記申請から1週間前後で登記が完了します。登記が完了すれば、登記簿謄本や印鑑証明書を取得することができるようになります。

⑤銀行口座開設・税務署等への届出

会社の登記が完了した後は、会社の銀行口座を開設できるようになります。また、税務署に法人設立届や青色申告承認申請書などの書類を提出します。従業員がいる場合には、社会保険や労働保険の手続きをします。

合同会社のメリット

これまで農業法人として株式会社を設立する場合について説明してきましたが、農業法人として合同会社を設立することも可能です(合同会社は、農地所有適格法人となることができますので、農地を所有することができます。)

合同会社は株式会社と同じく、社員(株式会社における株主)は出資した金銭以上の責任を負いません(有限責任)。この点が、無限責任を負う合名会社や合資会社(これらも農地所有適格法人となることができます。)との大きな違いです。

このように、有限責任しか負わないという点において合同会社は株式会社と同じですが、株式会社と比べた場合の合同会社のメリットは、小さな費用で始められ、設立後の運営の負担も小さいことです。

具体的には、以下のようなメリットがあります。

・定款認証が不要で登録免許税が安いため、設立費用を抑えられる

・決算公告の義務がない

・出資割合と異なる利益分配が可能

合同会社は、株式会社に比べると社会的認知度がまだまだ低く、株式公開をすることもできませんが、会社の規模が比較的小さい場合や会社の出資者と経営者を一体にしてスピーディかつフレキシブルな経営を目指す場合には最適です。

農業法人を設立する際には、株式会社と合同会社のいずれが合っているか、よく検討されるとよいでしょう。

農地所有適格法人の報告義務等

農地所有適格法人は、農地法の規定により、毎事業年度の終了後3ヶ月以内に事業の状況等を農業委員会に報告しなければなりません。

報告の際は、農地所有適格法人報告書のほかに、定款の写し、株主名簿の写し、決算書の写しや役員名簿の写しを提出することとされています。

これは、農地所有適格法人が農地法の条件を満たしているかを確認するためです。この報告の結果、条件を満たさないおそれがある場合には、農業委員会がその法人に対して必要な措置を取るよう勧告することができます。そして、勧告を受けた法人が農地の譲渡しを希望する場合には、農業委員会が譲渡のあっせんをします。

このような手続きを経ても農地の譲渡等が行われない場合には、最終手段として国がその農地を買収します。

このように、農業ビジネスを継続するため、農地所有適格法人となった後も株主や役員の変更の際には、継続して農地所有適格法人の条件を満たすことができるよう注意が必要です。

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