スマート農業の実現

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スマート農業

農業従事者の平均年齢は66.8歳(平成28年)となっており、農業従事者の高齢化は年々進んでいます。新規就農者のうち49歳以下は2万3030人(平成27年)であり、平成19年以来最多となるなど、徐々に若い人たちが農業に就く例も増加しているものの、農業を担う農業従事者の高齢化を止めるほどではありません。

ビジネスには人が必要であり、人が重要であることに変わりはありませんが、人口減少が予想される社会の中で若い農業従事者を大きく増やすことは容易ではありません。そこで、少ない人手のまま農業を行うという発想へ転換し、そのためにITやロボットの力を利用しようとするのが“スマート農業”(スマートアグリ)です。

スマート農業とは

“スマート農業”(スマートアグリ)とは、ロボット技術やICT(Information and Communication Technology。情報通信技術)を活用して超省力化や高品質生産等を目指す農業のことです。

ごく簡単に言えば、これまでは人が経験や感覚によってやっていたことを温度や湿度などのデータに基づく生産管理を行い、人が手作業や機械を動かして行っていた農作業をロボットに作業させようということです。

このような機械化、情報化は工業製品の製造業ではかねてから進んでおり、農業でも徐々に取り入れられてきました。しかし、農業は工場のような人工的に整備された建物の中で行うものではなく、自然の中で形もそれぞれ異なる農地で行われるもので、工業製品ほどの機械化等は困難でした。そして、かつては農業従事者も十分にいたため、あえて“スマート農業”に取り組む必要もありませんでした。

しかし、人手不足による農業の衰退が現実的になってきたことや、経済のグローバル化による海外の農産物との価格競争の激化により、日本の農業を省力化し、効率化する必要に迫られています。

農業がこのような状況のなか、例えば自動運転の自動車開発が進むなど、日本国内のロボット技術、ICTの分野は日々進歩しています。さらに、農作物の生育と温度や湿度等のデータの相関関係が明らかにされ、どのような環境であれば最も効率よく農産物を生産することができるかという研究も進んでいます。

このような農業の現状と技術の進歩により、農業にロボット技術、ICT等の最先端の技術を活用しようという“スマート農業”が注目を集め、実現に向けて動き出しています。

スマート農業への政府の取組み

農水省は、スマート農業の実現に向けて、スマート農業の将来像や実現に向けたロードマップ等を検討するため、平成25年に「スマート農業の実現に向けた研究会」を設置しました。この研究会には、ロボット技術やICTに関する研究機関、学識経験者、関係企業、先進農業者、関係省庁等が参加し、検討を進めています。

平成29年3月29日までに6回の会議が開催され、平成26年3月28日には、スマート農業の①将来像(ロボット技術やICT導入による新たな農業の姿)、②ロードマップ(段階別の実現目標と実現のための取組)、③取組上の留意事項について、『「スマート農業の実現に向けた研究会」検討結果の中間とりまとめ』が公表されました。

この中間とりまとめでは、①~③について記載されていますが、政府のスマート農業への取組みや進め方について知るため、ここでは中間とりまとめから一部を引用します。

①スマート農業の将来像

ロボット技術やICTの導入によりもたらされる新たな農業の姿を以下の5つの方向性に整理した。

  1. 超省力・大規模生産を実現

トラクター等の農業機械の自動走行の実現により、規模限界を打破

  1. 作物の能力を最大限に発揮

センシング技術や過去のデータを活用したきめ細やかな栽培(精密農業)により、従来にない多収・高品質生産を実現

  1. きつい作業、危険な作業から解放

収穫物の積み下ろし等重労働をアシストスーツにより軽労化、負担の大きな畦畔等の除草作業を自動化

  1. 誰もが取り組みやすい農業を実現

農機の運転アシスト装置、栽培ノウハウのデータ化等により、経験の少ない労働力でも対処可能な環境を実現

  1. 消費者・実需者に安心と信頼を提供

生産情報のクラウドシステムによる提供等により、産地と消費者・実需者を直結

②スマート農業の実現に向けたロードマップ

将来像を実現していくためには、土地利用型作物、園芸、畜産といった品目毎に導入が期待される技術を整理し、相互関係・相乗効果等を意識しながら現場導入に向けて具体的な取組を進めていくことが必要である。

トラクターの自動走行等の特に重要な技術分野については、3年後、5年後又は長期的に開発すべき技術(マイルストーン)を明確にし、さらに、その実現に向けて必要な各種の取組をロードマップに整理した上で、関係者が協力して取り組むこととする。

③スマート農業推進に当たっての留意点等

農業分野でのロボット技術の安全確保策のあり方について本研究会内で検討を深めていくほか、その他の諸留意点・課題についても、今後のロードマップ等の検討に当たって随時振り返るとともに、必要な場合について、本研究会以外の関係者とも連携を図って行くことが重要である。

 

このように、中間とりまとめではスマート農業の実現の方向性や進め方の大枠についてまとめられていますが、具体的な取り組みはこれからです。

なお、中間とりまとめを受けて、「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」が平成29年3月31日が策定されました(なお、平成30年3月27日に改訂されました。改訂版はこちら。)。このように、今後はさらにスマート農業実現のための取組みが具体化していくでしょう。

 

スマート農業の実現のためには、農業法人・農業経営者とロボット・ICT等の技術を持つ民間企業が協力して進めていく必要がありますが、その実現には多額の費用がかかることもあり、スマート農業推進のためには政府の政策が重要性を持つことになります。そのため、今後も政府のスマート農業についての政策について注目していく必要があります。

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