職場のハラスメント

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ハラスメント

新聞やテレビ、ネットニュースでセクハラやパワハラに関する話題を目にすることが多くなりました。セクハラやパワハラは多くの職場で身近な問題になっており、その与える影響も小さくありません。

農業においても、セクハラやパワハラの問題が明らかになった事例が増えています。農業を含め事業を発展させるためには、人がいなければなりません。しかし、ハラスメントが横行している職場からは人が離れてしまい、事業を発展させることはできません。そのため、ハラスメント問題には積極的に取り組まなければならないのです。

ハラスメントの与える影響

セクハラやパワハラといったハラスメントが職場に与える影響としては、次のようなものが挙げられます。

①従業員の意欲の低下

②従業員のメンタルヘルス問題

③ブラック企業とのレッテル

④雇用主の損害賠償責任

①従業員の意欲の低下

セクハラやパワハラが横行している職場の従業員は、職務に対する意欲が低下してしまいます。経営者や上司からセクハラ・パワハラを受けていると、その職場を辞めたいと考えるようになり、やる気がなくなってしまうのは当然のことです。

従業員の意欲が低下すると、積極的に職務に取り組む気持ちがなくなり、生産性は下がってしまいます。さらに、直接セクハラ・パワハラを受けていない従業員も、セクハラやパワハラの現場を見て、「この職場にはいたくない」と思うようになり、意欲が低下してしまいます。

②従業員のメンタルヘルス問題

セクハラやパワハラを受けた従業員は、うつ病などの精神疾患に罹患してしまうことがあります。セクハラ・パワハラによって従業員の意欲が低下するにとどまらず、そもそも働くことができなくなってしまうことがあります。

③ブラック企業とのレッテル

ネットの時代になり、会社の評判はあっという間に広がるようになりました。特に悪い評判はすぐに拡散するだけでなく、ネット上には半永久的に情報が残ります。

セクハラやパワハラが横行する職場の情報はネット上で共有され、「ブラック企業」とのレッテルを貼られてしまいます。就職・転職活動時に会社や雇用主の名前を検索することは当たり前になっていますので、ブラック企業というレッテルを貼られてしまうと人が集まらなくなってしまいます。そのため、採用活動において不利な立場に立たされてしまいます。

④雇用主の損害賠償責任

セクハラやパワハラを行った個人は、セクハラ・パワハラの被害者である従業員に対して治療費や慰謝料などの損害賠償責任を負うことになります。そして、加害者個人に加えて、雇用主も被害者である従業員に対して損害賠償責任を負うことがあります。

このように、加害者である個人だけではなく、雇用主である会社や事業主も被害者である従業員に対して損害賠償責任を負わなければならないことがあります。

セクハラとは

セクハラ(セクシュアルハラスメント)とは、『職場において行われる労働者の意思に反する性的な言動で、これに対する労働者の対応によって労働条件について不利益を受けたり(これを対価型セクハラといいます。)、性的な言動によって就業環境が害されること(これを環境型セクハラといいます。)』です。

「性的な言動」が何かということが問題になりますが、性的な関係を強要したり、必要なく身体へ接触することはもちろん、性的な冗談を言ったり、執拗にデートに誘うこと、自らの性的体験談を話すことなども「性的な言動」に含まれます。

 

セクハラが問題になるとしばしば聞かれる主張として「冗談のつもりだった」、「円滑なコミュニケーションのためだった」というものがあります。しかし、(本当に本人には悪気がなかったとしても)職場でのコミュニケーションのために“必要不可欠な”性的な言動は通常はあり得ません。冗談やコミュニケーションには他の手段があるはずですので、セクハラとならないようにするために、どのような趣旨であれ、業務に必要がない「性的な言動」はしないようにすべきです。

パワハラとは

パワハラ(パワーハラスメント)とは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます。

ここで問題となるのは「業務の適正な範囲を超えて」いるか否かです。(セクハラと異なり)パワハラでは疑われるようなことを全てしないことにしてしまうと、業務を進めるにあたって必要な指導もできなくなってしまう可能性があります。だからこそ、パワハラについてしっかりと理解した上で、必要な指導をすることが重要になります。

 

厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」による提言では、パワーハラスメントを以下の6つの類型に整理しています。

  1. 身体的な攻撃:暴行・傷害など
  2. 精神的な攻撃:脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言など
  3. 人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視など
  4. 過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
  5. 過小な要求:業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
  6. 個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること

この整理によっても、具体的なケースでパワハラなのか適切な指導なのかについての判断は容易ではありません。もっとも、適切な指導とは、従業員の行為・言動に対するものであって、従業員の人格を攻撃するものは適切な指導とは言えません。例えば、「バカ」と言ったり、「こんなこともできないのか」と言ったりすることは従業員の人格攻撃であって、適切な指導ということはできません。そのため、このような言動は、パワハラとして違法なものと判断されるおそれがあります。

業務を進めるにあたって、経営者や上司による指導はとても重要です。パワハラを恐れるあまり、間違ったことをした従業員に何も言えないというのでは、会社や事業主にとってマイナスであるだけでなく、従業員が成長する機会を失ってしまい、本人にとっても大きなマイナスです。だからこそ、適切な指導をすることは必要かつ重要なのです。しかし、これがパワハラとならないように、指導をする際には「この指導は人格攻撃ではなく、行為・言動に対するものか」ということを自らに問うてみるとよいでしょう。

ハラスメントを防止するためには

このように職場でハラスメントが起こると大きな負の影響が生じます。そのため、ハラスメントを防止することが大切です。

ハラスメント防止のためには、①職場でのハラスメントの実態を把握する、②ハラスメント防止指針を作る、③ハラスメント防止指針を従業員に周知する、④経営者・従業員教育を行う、⑤相談窓口を作る、といった手順によることが一般的です。

この中で最も重要なことは、「④経営者・従業員教育を行う」ことです。どんなに立派なハラスメント防止指針を作り、相談窓口を作ったとしても、それを理解して守ろうとしなければハラスメントを防止することはできません。そのため、経営者・従業員が「ハラスメントは撲滅しなければならないんだ」という意識を持ち、具体的にどのような言動がハラスメントになるのかを理解することが最も重要です。

この経営者・従業員教育のためには、専門家を呼んでセミナーを開催する方法の他に、経営者・上司(ハラスメントの加害者になる可能性のある側)と一般従業員(ハラスメントの被害者になる可能性がある側)が一緒にどのような言動が問題となるか議論をすることも非常に有効です。こうすることで、職場内でやっていいこととやってはいけないことの共通の理解が得られ、ハラスメント防止に役立ちます。

農業界全体で取り組む必要がある

統計では農業法人等に就職をした人が増えていますが、農業法人等に就職する人の数はこれからますます増えていくことが予想されます。農業で働きたいという人をさらに増やしたり、働き始めた人に定着してもらうためには、経営者が働きやすい職場を作っていかなければなりません。

一部の業界では、パワハラが横行しているといわれたり、長時間労働が当たり前だと考えられており、業界全体がブラックであるというイメージを持たれています。このようになってしまうと、一部の会社が努力をしても負のイメージを払拭することはとても難しくなってしまいます。そのため、ハラスメント防止を含めた労務環境の整備については、農業界全体で取り組んでいく必要があるのです。

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