
ビジネスを進めていくためには、従業員の力が必要不可欠です。どんなに優秀な経営者であっても、一人でできることには限りがあります。むしろ、従業員が力を発揮できる場を作ることができる経営者こそが、優秀な経営者と言えるのではないでしょうか。
このようにビジネスにとって大切な従業員ですが、様々な理由から従業員と会社がトラブルになってしまうことがあります。労務トラブルを防止するために、どのようなことが原因でトラブルとなるのか、またその防止のために必要なことを理解しておくことは、経営者にとってとても重要です。
労務トラブルの類型
労務トラブルには様々なものがありますが、しばしば起こってしまう労務トラブルとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 解雇
従業員に問題があったため解雇したところ、その従業員から解雇が無効だと主張されることがあります。
- 退職勧奨
問題があったり人員過剰であるため従業員に退職を促したところ、その方法に問題があると主張され、従業員から退職が無効だと言われたり、損害賠償請求されたりすることがあります。
- 契約更新(雇止め)
有期雇用従業員の期間満了で雇用を終了させたところ、従業員から契約は更新されているので引き続き働かせるように求められる場合です。
- 残業代請求
残業代を支払っていないために従業員から残業代を払うように請求されることがあります。固定残業代や管理職という理由で残業代を支払っていない場合にも問題になりやすいものです。
- セクハラ
上司などからセクハラを受けたと主張して、従業員から会社の責任を問われることがあります。
- パワハラ
従業員が上司などからパワハラを受けたと主張し、会社が損害賠償請求などを受けることがあります。
- 長時間労働
長時間労働によって、従業員が体調を崩したり、すぐに退職してしまうことがあります。また、労働基準監督署から是正指導されることがあります。
- メンタルヘルス
長時間労働やセクハラ、パワハラなどのストレスにより、従業員がうつ病などの精神疾患にかかってしまうことがあります。
- 従業員間トラブル
従業員同士の人間関係トラブルによって、業務が停滞したり支障をきたしたりすることがあります。
- 業務委託・請負
業務委託や請負によって業務を依頼していた人から、実態は従業員であるとして、労働法に基づく権利(残業代・解雇無効・契約更新など)を主張されることがあります。
- 労働災害(労災)
業務中に怪我をした場合、雇用主が責任を負うことがあります。
労務トラブルの原因
このように、従業員を雇用していると様々な労務トラブルが起こる可能性がありますが、なぜこのようなトラブルが起こってしまうのでしょうか。
その原因を大別すると、以下の二つに分けられます。
- 労働法に関する知識不足・意識の欠如
- 対応の遅れ・間違い
労働法に関する知識不足・意識の欠如
解雇、退職勧奨、契約更新(雇止め)、残業代請求、業務委託・請負などは、経営者が労働法についての知識が不足していたり、そもそも労働法について意識していないことが原因であることがほとんどです。
労務トラブルが発生し、弁護士や社会保険労務士に相談してはじめて「そんな法律があったのか」と驚くことも少なくありません。
対応の遅れ・間違い
セクハラ、パワハラ、長時間労働、メンタルヘルス、従業員間トラブル、労働災害(労災)などは、経営者の対応が遅れたり、間違っていたりしたことから、問題が大きくなることがほとんどです。
まず、“問題の芽”を摘むことが大切ですが、“問題の芽”が表に出てくるような体制になっていることが第一歩です。問題があるときに上司や同僚など他の従業員に相談できるような職場でなければなりません。これは会社内のコミュニケーションの問題です。
次に、問題が発覚した後に会社として対応する体制が整っているかが重要です。例えば、相談を受けた上司一人で対応する体制になっていると、何の対応もしない場合や、不適切な対応をしてしまうことがよくあります。問題が発覚した場合には、会社として対応する体制が必要です。
労務トラブル防止のために
労務トラブルの発生を防ぐためには、経営者が労働法に関する知識を身に付け、労働法を遵守する意識を持つ必要があります。
もっとも、労働法分野は非常に幅広いため、法律の専門家であっても、労働法にはあまり詳しくないという弁護士も少なくありません。その上、労働法は社会情勢やその時々の問題に対応するために頻繁に法改正が行われます。
このような労働法を事業運営に忙しい経営者が細部まで理解することは困難です。それでも、労務トラブルを防ぐために、従業員を雇用する経営者は「問題があるかもしれない」という“違和感”を持てるようにならなければなりません。そのためには、労働法についての法的な考え方を身に付ける必要があります。この“違和感”が持てるようになれば、すぐに労働法の専門家に相談することができ、トラブル発生を防ぐことができます。
そして、基本的な労働法について書かれた本を読んだり、各地で開催されているセミナーに参加することで、労働法に関する法的思考力を養うことができます。あるいは、労働法に詳しい弁護士や社会保険労務士に頻繁に相談する中で、身に付けることもできるでしょう。
このようにして労働法に関する法的思考力を身に付けることで、“違和感”を持つことができるようになりますが、“違和感”を感じた場合には、すぐに弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談するようにしてください。そのため、すぐに相談できる専門家を見付けておくことも大切です。
さらに、対応の遅れや間違いを防ぐためには、会社として問題に対応するための体制が必要です。例えば、労務トラブルの種を発見した場合には、発見した従業員はすぐに経営者に報告するよう普段から徹底したり、直属の上司以外に相談できる窓口を作ったりすることなどの体制を整えることで、会社として適切に対応することが可能になります。
労務トラブルは、事業運営にとってマイナスになることはあっても、プラスになることはありません。
従業員の力がビジネスにとっては重要であるからこそ、労務トラブルを防ぎ、働きやすい職場を作らなければならないのです。そのためには、労働法についての法的思考を身に付け、早期に正しく対応することが必要なのです。