農産物取引のトラブル

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トラブル

農産物の取引には、様々なリスクが潜んでいます。そのため、リスクを適切に把握し、そのリスクを回避するために契約書を作ることがとても重要です。(農業ビジネスにおける契約書の必要性については、“農業ビジネスと契約書の必要性”をご覧ください。)

しかし、契約書をきちんと作った場合でも、リスクをゼロにすることはできません。様々なリスクが実現してしまい、トラブルとなってしまうことがあります。

ここでは、どのようなトラブルが起こるのか、トラブル解決の方法とトラブルを回避するためにはどのようにしたらよいのかについて解説します。

典型的な取引トラブル

農産物の取引において生じる典型的なトラブルとしては、次のようなものがあります。

  1. 代金を支払ってもらえない
  2. 取引先が倒産した
  3. 納品した商品が違うと言われた
  4. 不作により数量が確保できなくなった
  5. 基準値を超える残留農薬が検出されたと言われた

1. 代金を支払ってもらえない

農産物取引に限らず、売主にとって代金回収は最も重要な事項の一つです。しかし、様々な理由から買主が代金を支払わないことがあります。

買主が代金を支払わない理由としては、“運転資金が足りないので払えない”ということが最も多いですが、その他にも“納品された商品に不満があるので払わない”といったこともありますし、“うっかり忘れていた”ということもあります。

代金が支払われない場合には、支払われない理由によって対応が変わってきますので、何よりもまず、なぜ代金が支払われないのかを確認することが重要です。買主に対して確認したところ、“うっかり忘れていた”ということもありますので、この場合には大きなトラブルにはなりません。

“納品された商品に不満がある”場合には、すでに買主から何らかの連絡があるはずです。その不満の内容によって、どのように対応するかを決めることになります。(詳しくは、“3. 納品した商品が違うと言われた”をご覧ください。)

そして、最も多いのが“運転資金が足りないので払えない”というものです。この場合には、買主の手元資金と支払債務のバランスが取れていない状況ですので、売主としては早期に代金回収に動かなければなりません。まずは何度も連絡を取って、すぐに支払うように催促をすることが基本ですが、すぐに支払うことが現実的に難しい場合には、分割払いを認めるといった交渉も必要になるかもしれません。

それでも支払われない場合には、訴訟提起などの法的措置を取ることも検討する必要があります。

 

このように代金未払いのトラブルに発展しないようにするためには、契約書でしっかりと対応しておくことが必要です。

複数回の取引があり、それに応じて複数回の支払いがある場合には、一つでも支払いが遅れた場合には、それ以降に支払日が来るすべての支払いを直ちにしなければならない(期限の利益を喪失する)、といった規定を設けておくとよいでしょう。

その他にも、支払期日から遅れた場合には、法定(原則として年利6%)よりも高い遅延損害金の利率を定めておくことによって、期日通り支払うようプレッシャーをかけることができます。

2. 取引先が倒産した

“1. 代金を支払ってもらえない”ことがさらに発展すると、取引先が倒産してしまうことがあります。

取引先が倒産してしまった後は、裁判所の手続きに従って債権回収を図ることになりますが、通常は全額回収できることはありません。

だからこそ、“1. 代金を支払ってもらえない”に記載したように、倒産に至る前に代金を回収できるように迅速に対応する必要があります。

 

また、倒産してしまった場合のリスクを少なくするためには、商品の納期と代金の支払時期をできるだけ近くすることも重要です。商品の納入から代金支払いまで時間が空けば空くほど、取引先の状況が変わる可能性が高まり、倒産に至るリスクが高まります。

そして、新たな取引先との取引には慎重になることも重要です。できる限りの取引先の信用調査を行い、財務状況に不安があるような場合には取引をしないこととしたり、取引量を少なくしたりするといった対応も必要になるでしょう。

3. 納品した商品が違うと言われた

買主から納品した商品が違っていると連絡があった場合、納品した商品と注文書(契約書)に記載してある商品が合致しているか確認することがファーストステップです。その確認のためにも、注文は口頭ではなく書面で受けるようにすること、注文の受諾についても書面で返答することが重要です。さらに、納品した商品がどのようなものであったかについて、記録を残しておく必要もあります。

確認の結果、本当に商品が違っていることが判明した場合には、一刻も早く正しい商品を納品しなければなりません。この対応が遅くなればなるほど、買主に損害が発生する可能性が高まり、売主が損害を賠償する責任を負うこととなってしまいます。

納品した商品を確認したものの、売主の認識としては商品に間違いがない場合、そもそも注文時(契約成立時)に売主と買主の認識が異なっていた可能性があります。この場合には、注文書(契約書)の記載や納品時の記録をもとに、買主と協議して解決していくことになります。

 

このような認識の違いを防ぐためには、注文時に取引対象の商品をできる限り具体的に特定する必要があります。農産物の場合には、品種、産地、等級、大きさ、重さなどによって商品を特定することが一般的です。そして、重要なことはこの特定内容を口頭の確認のみで済ませるのではなく、書面に残しておくことです。

さらに、契約書には、①納品時に買主がすぐに内容を確認すること、②買主は商品に間違いがないことを確認した書面を売主に提出することという規定を設けることで、後に商品が違うと言われるトラブルを防ぐことができます。ここでも、後に証拠となるように書面によって確認することが重要です。

4. 不作により数量が確保できなくなった

契約取引の場合、農作物の種まき前に取引数量を決めることとなりますので、十分な量の作付けを行った場合でも、天候不順等の理由によって取り決めていた数量を確保できなくなることがあります。これは、農作物取引の大きな特徴であり、最大限注意が必要な点です。

取り決めていた数量を確保できない可能性が生じた場合、速やかに買主に対して連絡をすることが最初に行うべきことです。この連絡が遅れてしまうと、買主が代替手段を講じることが難しくなり、買主に損害が発生する可能性が高くなります。そのため、売主としては数量が確保できない可能性が生じた時点で、すぐに買主に連絡をしなければなりません。

 

売主としては、契約書の中に、天候不順によって合意した数量の納品が困難となった場合の対応について規定を設けておくべきです。

売主からの通知義務と代替品確保のための協力義務などを設けるかわりに、天候不順などのコントロールできない理由によって納品が困難となった場合には、責任を負わないような規定を設けることができればリスクを回避することができます。

5. 基準値を超える残留農薬が検出されたと言われた

農産物を出荷した後、買主から基準値を超える残留農薬が検出されたと連絡があった場合には、何よりも事実の確認が重要です。そして、基準値を超える残留農薬が確認された場合には、健康被害が出ることがないように迅速に対応しなければなりません。

このような場合に備えて、どのような農薬をいつどの程度使用したか、正確な記録を残しておくことも重要です。

加えて、同じ農産物を他の買主に対しても出荷していた場合には、他の買主から何の連絡もない段階でも、速やかに連絡して情報を提供し、出荷した農産物を回収するなどの対応を取る必要があります。こうすることで、被害の拡大を防ぐことができ、売主としても責任の拡大を抑えることができます。

 

取引先との契約書において、基準値を超える残留農薬が検出された場合でも責任を負わないといった規定を設けることができればリスク回避が可能ですが、このような規定を買主が受け入れることは現実的ではありません。

そこで、いざという時のために以下に記載する保険を活用することも検討に値します。

保険の活用

取引先との契約締結時にリスクを適切に把握し、そのリスクを回避するための規定を契約書に設けることはとても重要ですが、それだけですべてのリスクを完全になくすことは実際には不可能です。

買主との交渉次第ですが、一定のリスクは引き受けざるを得ないのが現実であり、また、想定できなかったリスクが潜んでいる場合もあります。

そこで、リスクが現実化した場合の損失を補填する方法として、損害保険に加入するというものがあります。

現在は、JA共済や様々な損害保険会社から事業用の損害保険が発売されていますが、その中には農業に特化した保険商品もあります。

そのため、特に取引額が大きくなってきた場合には、保険代理店等に相談してみるとよいかもしれません。

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