農産物取引と法律

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農産物取引

かつて農産物の出荷先のほとんどは農協でした。しかし、近年は農業法人・農家からの出荷先は農協以外にもどんどん広がっています。

現在は、農協や卸売市場以外にも、小売業者、食品製造業者、飲食店などの外食業者などに直接農産物を出荷しています。さらに、直売所やインターネットを通じて一般消費者に直接販売する量も増えています。

農産物の直接取引は売買契約に基づいて行われています。そこでは“契約”であることが意識されていないかもしれませんが、法律の世界から見ると、すべての取引の際に“契約”が締結されています。売買契約は民法に基づくものですが、販売先の多様化によって取引に関わる法律も多様化し、民法以外の様々な法律も関連しています。

さらに、直接取引の拡大とともに契約条件とそれを記載した“契約書”がますます重要になっています。

直接取引に関わる法律

農産物を農協や卸売市場を通さずに販売する直接取引の販売先としては、以下のような業者があります。

  • スーパーマーケットなどの小売業者
  • カット野菜業者や漬物業者などの食品加工業者
  • レストランなどの飲食店
  • 惣菜製造販売業者などの中食業者
  • 学校給食や社員食堂などを運営する給食事業者
  • 農産物を卸売りする食品商社
  • 農産物を食べる一般消費者

農産物の販売をするためには売買契約を締結することになりますが、“契約書”を作っていないとしても、売買契約は成立しています。“契約書”というタイトルの書面がなく、取引先から注文書が送られてきただけであったり、電話で話したりしただけであっても、売買契約は成立しているのです。

この売買契約は民法に基づくものですので、民法の適用を受けます。また、農業法人や販売農家は事業者であるため、商法も適用されることになります。

一般消費者に直接販売する場合には、さらに適用される法律が増えます。特にインターネット販売をする場合には、消費者契約法、特定商取引法、電子消費者契約法、個人情報保護法といった多くの法律が適用されることになります。

直接取引には契約書が必須

農協への出荷については、契約書を締結していない場合でも、通常は予め定められた手数料率などが画一的に決められており、明らかであることから、大きなトラブルとなることはあまりありません。

しかし、直接取引の場合には事情が異なります。契約書を締結していなければ、民法や商法の規定そのままの契約内容になりますし、法律に書いていないことは何の合意もないことになります。また、口頭で合意したことについて後にトラブルとなってしまった場合、合意内容を証明する手段がなくなってしまいます(だからこそ、トラブルとなってしまうのです。)。

農業法人・農家と小売業者や飲食店などの直接取引の相手は、取引に関する利害が一致していません。利害や事情は売手ごと、買手ごとに異なっていますが、一例として売手・買手それぞれの利害や事情を挙げてみると、売手である農業法人・農家と買手である直接取引の相手の利害・事情は、次のように対立しています。

農業法人・農家(売手) 直接取引の相手(買手)
高く売りたい 安く買いたい
天候などで質にバラつきが出る 質のよいものだけ買いたい
見た目にかかわらず全て売りたい 見た目のいいものだけ買いたい
定期的・安定的に売りたい 必要な時にだけ買いたい
大量にまとめて売りたい 少しだけ買いたい

このように対立する利害を調整せず、何の合意もしないままに取引を進めると、取引先とトラブルとなることがあるのです。

取引相手とは、それぞれの利害や事情を踏まえて交渉をし、取引条件を決める必要があります。そして、交渉をして合意された取引条件を記載したものが“契約書”なのです。

この契約書を作らないで取引を進めると、思わぬトラブルに見舞われることがあります。例えば、価格面については口頭で合意したので、その他の取引条件をあいまいにしたまま契約書を作らずに取引を進めたところ、農産物の納品の段階になって「質が悪いから受け取れない」と言われ、受け取り拒否をされてしまうといったことが起こります。

これは、“どのような質のものを納品するのか”という重要なことについて合意せず、契約書も作らなかったことが原因でトラブルになってしまったのです。

重要なことは、①取引条件について交渉をして合意することと、②合意内容を契約書に記載することの二点です。

直接取引は定型的なものではなく、農業法人・農家ごと、直接取引の相手方ごとに利害や事情が異なっています。そのため、①取引条件について交渉をして合意することと、②合意内容を契約書に記載することがとても重要なのです。

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