農業法人化のメリットとデメリット

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農業のビジネス化が進むにつれて、農業法人の数は増えています。平成27年には、農業法人の数は1万8857法人まで増えました。家族経営の販売農家が減っていく一方で、耕作放棄地などを集約して一部の農家が大規模化し、農業法人として農業ビジネスを経営する傾向はこれからも進むことが予想されます。

農業ビジネスを進めるにあたって、農業法人化するメリットはどこにあるのでしょうか。また、反対にデメリットとしてはどのようなものがあるのでしょうか。

農業法人化のメリット

農業をビジネスとして経営する場合でも、必ずしも法人にしなければならないことはありません。実際に、個人経営のまま法人化せずに農業ビジネスに取り組んでいる例もあります。しかし、農業ビジネスがある程度の規模になった場合、多くの農業経営者は法人化しています。

農業経営者が規模の拡大とともに法人化するのは、次のようなメリットがあるためです。(ここでは、農業法人のうち、最も一般的な株式会社を念頭に置いています。)

①信用力の向上

②人材の確保

③資金調達方法の多様化

④融資の拡大

⑤税務上のメリット

⑥事業承継対策

 

①信用力の向上

株式会社化することにより、決算書を作成しなければならないなど手間が増えますが、事業と家計が分離されますので、金融機関や取引先などに対して経営の透明性が増し、信用力が向上します。

その結果として、金融機関からの借入れがしやすくなったり、新規取引の開拓などがしやすくなるというメリットがあります。

②人材の確保

事業の拡大に応じて人手が必要になりますので、農業ビジネスの進展とともに従業員を雇用しなければなりません。

従業員を雇用する際にも、個人経営に比べて法人経営は信用力が高まるため、従業員の採用にも有利です。

さらに、農業法人化により、労働保険・社会保険への加入義務が生じますので従業員の雇用を安定させることができ、長く働いてもらいやすくなります。

このように、農業法人化することで従業員を採用しやすくなるだけでなく、採用後も働き続けやすい環境になることから、人材の確保についてもメリットがあります。

③資金調達方法の多様化

農業ビジネスを拡大するために新規投資を行う必要が生じますが、そのためには資金調達が必要となることがあります。個人経営の場合には、資金調達の方法としては金融機関等からの借入れと助成金が主な選択肢であり、自己資金を除けばそれ以外の資金調達方法はほとんどありません。

しかし、株式会社であれば、借入れと助成金の他にも出資を受ける方法(株式や新株予約権の発行)や社債の発行といった資金調達手段を取ることが可能です。

資金調達手段が増えるということは、資金の出し手が増えるということになりますので、資金調達がしやすくなることを意味します。このように、資金調達手段が増えることは大きなメリットと言えるでしょう。

④融資の拡大

農業経営には、農業に特化した特別な条件での融資がいろいろ用意されています。これらの融資についても、農業法人の場合には、個人経営の場合より大きな金額の借入が可能となるなどのメリットがあります。

例えば、農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)の貸付限度額は、原則として個人に対しては3億円となっていますが、法人であれば10億円と3倍以上に増額されています。

⑤税務上のメリット

農業法人化によって、税務上も様々なメリットがあります。

一例として、役員報酬を給与所得とすることが可能となったり、欠損金が9年間(2018年4月1日以降は10年間)繰越控除できる(個人の場合は3年間)こととなっています。

他にも、特に農業については特別な税務上の特典も用意されています。

⑥事業承継対策

株式会社は解散しない限り、永続的に存在し続けます。この点が個人との大きな違いです。そのため、株式会社化することによって、経営者個人を中心とするのではなく、継続する会社を中心とした事業承継対策を講じることが可能になります。

農業ビジネスに関わる資産や契約などについて、会社が主体となって所有、契約していれば、経営者の退任があっても新たに手続きをする必要はありません。事業承継の手続きとしては、農業法人の権利(株式会社であれば株式)をどのように承継していくかを検討、実行すればよいことになります。

他方で、個人経営であると、個々の資産が相続されることになりますので、手続きが煩雑なだけでなく、相続の結果次第では資産がばらばらになってしまって農業ビジネスが継続できなくなるおそれもあります。

このように、事業承継の観点からも、農業法人化には大きなメリットがあります。

 

農業法人化のデメリット

農業法人化することによって、それまでの個人経営に比べてデメリットが生じることも確かです。では、農業法人化のデメリットとしては、どのようなものがあるのでしょうか。

農業法人化のデメリットとしては、簡潔に言えば法人の運営に必要な費用と手間がかかるということです。例えば、以下のようなものが挙げられます。

①毎年決算書を作成することになり、専門家に依頼する費用がかかる

②社会保険への加入により、会社負担分の支出が必要になる

③株主総会開催や登記など会社運営のための費用、専門家に依頼する費用がかかる

④売上規模が小さいとかえって税金額が増える

 

このように、農業法人化には費用と手間がかかるようになるというデメリットがあります。

しかし、農業ビジネスを進めていく上では、この費用と手間を上回るメリットを享受することが可能ですので、農業法人化する以上はそのメリットを活かすようにすることが必要です。同時に、手間の部分を減らすために、弁護士、税理士、社会保険労務士などの専門家を活用することも検討するとよいでしょう。

 

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