農業の事業承継

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農業事業承継

日本の農業就業人口の平均年齢は66.6歳(平成29年)と高齢化が進んでいます。他方で、徐々にではあるものの、若者の新規就農者も増えています。

これからの日本の農業の発展のためには、農業の世界でも事業承継を進めていくことが重要になっています。今ある農業をしっかりと引き継いだうえで、事業を承継した後継者が新しい時代の農業を作っていくことが必要です。

事業承継と相続の違い

子どもなどの親族が事業を承継する場合には、相続が関わってきます。そのため、事業承継とは相続の問題であると考えている方もいらっしゃるかもしれません。

たしかに、個人が所有している農業に必要な農地や農機具、事業資金等は相続の対象であることから、事業承継と相続は切っても切れない関係にあります。しかし、相続はあくまでも亡くなった方の個人的な資産を子どもや配偶者がどのように引き継ぐかという問題に過ぎません。

これに対して、事業承継とは事業を誰がどのように引き継いでいくかという問題であり、その対象には事業用の有形資産(農地などの目に見える資産)も含まれるものの、このような有形資産はあくまでも事業承継の対象の一部に過ぎません。事業承継では、事業が積み重ねてきたノウハウや信用、従業員の雇用や取引先との取引関係といった事業を構成するあらゆる無形資産(目に見えない資産)も対象となります。

また、別の側面から事業承継と相続の違いを見ると、両者には継続性の有無という違いがあります。相続は自らの資産を誰に引き継がせるかということであり、継続性は問題になりません。したがって、資産を引き継がせる人(被相続人)は、自分自身の意思だけで相続の内容を決めることができます。

これに対して、事業はその後も継続していくものであり、事業には従業員や取引先など多くの人が関わっています。したがって、経営者は事業を継続させていくために最適な方法を考えなければなりません。

このように、事業承継においては事業を継続させるためにどうすればよいかという視点が欠かせません。

農業の事業承継の対象

農業の事業承継の対象として考えられるものとしては、まず以下のような農業のために使用している有形資産(目に見える資産)が挙げられます。

【有形資産】
・農地
・農業機械
・加工設備・工場
・事業資金

また、事業承継は事業を承継していくものであることから、その対象は有形資産にとどまらず、無形資産(目に見えない資産)も対象となります。

【無形資産】
・取引先との契約関係
・従業員との関係
・ブランド力、知名度
・金融機関に対する信用力
・生産に関する技術、ノウハウ

このように、事業承継の対象は有形資産だけではなく、事業が時間をかけて育て上げた信用力や取引先・従業員との関係といった無形資産も対象となります。これは、相続とは異なり、事業承継は事業を継続していくことを目的としているためです。

事業承継の方法

農地所有適格法人である株式会社の場合の事業承継の方法としては、主に以下の3つがあります。

①親族内承継

現経営者の子どもなどの親族が事業を引き継ぐ方法です。農業の事業承継ではもっともポピュラーな方法です。

②役員・従業員承継

①と異なり、親族ではない役員や従業員が事業を引き継ぐ方法です。これは、親族の中に事業を引き継ぐ者がいない場合などに活用されています。もともと役員や従業員として働いていた人が事業を承継しますので、事業の一貫性を保ちやすいというメリットがあります。

③M&Aによる売却

この方法は、親族や従業員等による内部での承継ではなく、同業他社等に会社を売却する方法です。農業ではこれまで会社の売却という方法は一般的ではありませんでしたが、今後は後継者不足問題への対応のために外部への売却という例が増えるかもしれません。この方法では、会社の買い手(株式を取得する相手)も農地所有適格法人の要件(“農地所有適格法人と農業への参入”をご参照ください。)を満たす必要があることに注意が必要です。

また、いわばこの会社売却の変型として、農地を第三者に貸し出し、あわせて従業員や取引先も引き継ぐという形で事業承継を行うという方法も考えられます。

 

法人ではなく個人事業として農業を営んでいる場合には、農地や事業資金などの事業用資産が相続の対象となり、相続問題がダイレクトに関わります。また、資産を後継者に移転するタイミングや方法、取引先との契約の移転についても検討が必要です。

事業を継続していくことを前提とした事業承継においては、事業承継をスムーズに進めるために法人化することも検討するとよいでしょう。

事業承継のポイント

事業承継について検討を始めるタイミングは、現在の経営者が元気なうちに始めることが重要です。健康上の問題などが生じてからでは、選択の幅が狭まることもありますので、できる限り早く事業承継の計画を立てるとよいでしょう。

また、繰り返しになりますが、事業承継は単なる相続の問題ではないという認識を持ち、いかにして農業という事業を後継者に引き継がせるかという視点で検討することも重要です。

さらに、事業承継を検討する際に相続税対策ばかりを重視する場合が見受けられますが、あくまでもどのような形で承継すれば後継者が事業を継続・発展させられるか、トラブルを避けることができるかといった観点から検討をし、その上で相続税対策を検討するとよいでしょう。

相続税対策ばかりを念頭においた事業承継計画を立てると、実際に事業承継を行ったあとになってから、相続人間でトラブルとなったり、事業の継続が困難となってしまったりすることがあります。

 

以上のようなポイントに気を付けながら、スムーズに事業承継が進むよう計画を立てることが重要です。

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