
ビジネスを展開していく上で、人材はとても重要です。経営者は会社の方針を決めて実行していく責任がありますが、経営者だけでできることは限りがあり、経営者だけでビジネスを拡大していくことはできません。従業員がいるからこそ、ビジネスを拡大していくことができるのです。
さらに、ビジネスの使命の一つは雇用を創出することです。そうすることで、社会に貢献することができ、そのビジネスが価値あるものとなるのです。
これは、農業ビジネスでも全く同じです。農業ビジネスを展開していくためには、ビジネスの発展段階に応じて、従業員を雇用していく必要があります。
農業従業員の現状
平成28年農業白書によれば、平成27年に従業員を雇った農業法人は1万1,707法人となっており、農業法人における常雇い人数の合計は10万4,285人となっています。いずれもこの10年で倍増しています。
そして、農水省が発表している統計(http://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html)によると、平成21年から平成27年までに農業法人等に新たに雇用された人数は次のとおりです。
21年 | 22年 | 23年 | 24年 | 25年 | 26年 | 27年 | |
新規雇用就農者 | 7.6 | 8.0 | 8.9 | 8.5 | 7.5 | 7.7 | 10.4 |
うち女性 | 2.1 | 2.4 | 2.9 | 2.9 | 2.6 | 2.6 | 3.1 |
うち49歳以下 | 5.9 | 6.1 | 7.0 | 6.6 | 5.8 | 6.0 | 8.0 |
うち女性 | 1.5 | 1.7 | 2.3 | 2.0 | 2.0 | 2.0 | 2.5 |
うち44歳以下 | … | … | … | 6.0 | 5.3 | 5.4 | 7.4 |
うち女性 | … | … | … | 1.6 | 1.6 | 1.8 | 2.2 |
(単位千人)
平成21年に約7600人であった新規雇用就農者は、平成27年には約1万400人と1万人を超えました。
これらの統計から明らかなように、農業ビジネスの拡大とともに、従業員として農業ビジネスに従事する人が増えています。また、それまで農業に従事していなかった人や女性、若年者も、農業従業員となりたいと考えていることがわかります。
このように、農業ビジネスが拡大するにつれて、農業法人は従業員を増やしており、仕事を探している人が農業法人を勤務先として選ぶことが徐々に増えています。
従業員の雇用と労働法
従業員を雇用した場合、雇い主(使用者)と従業員(労働者)の間には労働契約が成立しています。労働契約書、雇用契約書というタイトルの契約書を作っていないとしても、雇い主と従業員の間では、労働契約が成立しているのです。
雇い主と従業員の間の労働契約では、労働時間や賃金などの労働条件が決められますが、通常は、雇われる側の従業員よりも雇う側である雇い主の力が強いことがほとんどです。そのため、労働条件を自由に決めてよいということになると、力の強い雇い主は雇い主にだけ有利な、すなわち従業員には不利な労働条件を一方的に決めてしまう可能性があります。実際に、労働法が生まれる前には、低賃金、長時間労働で安全確保をしないままに危険な労働をされられ、過酷な状況に追い込まれた人がたくさんいました。
このようなことを防いで労働者を守るために、労働法が制定されるようになりました。
労働法は、弱い立場にいる従業員を保護するために生まれましたが、“労働法”という法律があるわけではありません。労働に関する法律は数多くありますが、これらを総称して“労働法”と呼んでいるだけなのです。
“労働法”に含まれる法律としては、以下のようなものが挙げられます。
- 労働契約法
- 労働基準法
- 男女雇用機会均等法
- 最低賃金法
- 労働安全衛生法
- 労働者災害補償保険法
- 労働組合法
- 雇用保険法
農業については、自然を相手にする産業であることから、労働時間規制などの一部の規制については、適用されないこととなっているものの、ほとんどの労働法は農業法人で働く従業員にも適用されます。
そのため、農業ビジネスが従業員を雇う際には、労働トラブル防止と従業員に働きやすい労働環境を提供するために、経営者が労働法を理解する必要があります。
そうは言っても、経営者が労働法の詳細まですべて理解・把握することはとても困難です。この問題の解決方法の一つは、弁護士や社会保険労務士といった労働法の専門家を活用することです。そうすることで、経営者は労働問題の発生を防ぎ、従業員が働きやすい職場を作っていくことができます。